私の好きな人は、校内1のモテ男と言われている伊月俊くんだ。

実際ライバルは多いけど、私だって本気で彼のことが好きなんだから、そう簡単に諦めるつもりはない。

勉強も出来て運動も出来て、それでいてイケメンで優しくてノリもいい。

正直ダジャレは意味分からないけど、バスケをしているときの伊月くんを見ればそんなことどうでも良くなってしまった。

うちのバスケ部は皆ガチでやってるけど、その中でも何て言うか、熱意って言うか執着って言うか……クールなはずの伊月くんが一番熱いように見えたのだ。

そんな私の最大のライバルはバスケ───ではなく、同じクラスの名字名前。

周りからは、"伊月くんの恋人"と揶揄されている子である。

名前とは名前で呼び合うぐらいの仲だし、私は友人として、真面目だけど何か抜けてる彼女が好き。

だからこそああいうところに遭遇してしまったら───あぁもう、ほんとこの行き場のない感じどうしろって言うの?









それはこの間の日曜日、バスケ部が練習試合を行った日のことだ。

対戦相手が私のイトコの通う学校だって聞いて、これはチャンスと思ってこっそり見に行ったんだけど、運が良かったのか悪かったのか、意図せず2人の仲の良さを見せつけられてしまったのである。

その日の伊月くんは相変わらず格好良くて、でもどこかピリピリしてて。

バスケ自体に詳しくないからはっきりとは言えないけど、多分調子悪くて色々上手くいってなかったんだと思う。

休憩に入ったら、ちょっと苛立った様子で体育館を出て行く伊月くんを見て、私も咄嗟に彼を追いかけてた。

名前がすぐ伊月くんを追ってるなんて知らないでね。

で、少し離れた校舎裏で私が彼を見つけたとき、名前がちょうど伊月くんに追い付いたところだったってわけ。


「俊…!」

「……………名前」

「こっちに水道はないよ」


そう言いながらドリンクを手渡す名前を見た伊月くんは、驚いたように目を瞠った後、悲しそうに笑った。

こういうときの彼女は、本当に言葉選びが上手いと思う。

それが計算か天然、どっちなのかは分からないけど。


「……そうみたいだな」


伸ばされた手はドリンクを受け取らずに、名前の細い腕を掴んだ。

そのまま彼の腕の中へ招かれたのは、彼より大分小さな名前で、私じゃない。

目の前でまざまざと見せつけられた事実に心臓が抉られるように痛んだけど、だからと言ってこの場から逃げ出すという選択肢は私の中になかった。

見蕩れる…と言えばいいのか、とにかく目を離したくなかったし離せなかったのだ。


「ごめん、汗臭いよな」

「ううん、大丈夫だけど…」

「まぁ、汗臭いって言われても離せないけど」

「俊…」


呆れたような困ったような、そんな感じで彼の名を呼ぶ名前は、きっと今そわそわしているのだろう。

彼女の頭に顔を埋め正面から抱き締める伊月くんは、いつものクールな彼じゃなくて、クラスでは見せたことないぐらい優しい顔をしていた。

こんないい空気なのに、付き合ってないとか本気で勘弁してほしい。


「名前」

「ん?」

「ありがとな」

「何もしてないよ」

「してるんだって」


ふわりと笑った伊月くんが名前から少しだけ離れた、かと思った、ら。


「…………っ」


今度は引き寄せられるように重なった。


「名前」

「待って…」

「待てない」


名前の真っ赤な頬を隠すように掌で包み込んで逃げられないようにして、伊月くんは何度も、所謂啄むように名前に唇を落とす。

見てごめんなさいって言う罪悪感と居たたまれない恥ずかしさの間に、ちょっと強引な伊月くんもカッコいいとか思っちゃう自分がいたのが残念すぎたよね。

この残念さに我に返った私は、物音を立てないように体育館に戻ったんだけど、その後の試合は全く頭に入ってこなかった。

いや、直視出来ないって最後までちゃっかり見たけど!









ね?

行き場なくしちゃうでしょ?

諦めるつもりはないし、伊月くんを好きな気持ちは変わらないけどさ、これで私もめでたく伊月&名前の恋人派に一票かなって。

木吉くんも男前だし包容力ヤバいしカッコいいんだけど、どっちかって言えば満たし合っちゃう感じの2人推しだわ、私。

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