「伊月サンと名前サンじゃないっすか!お久しぶりでーっす」

「高尾!」

「高尾くん!」


突如名を呼ばれ振り返った2人に向かって、ひらひらと片手を振ってみせた高尾は、後輩らしく人懐っこい笑みを浮かべている。

クラスメート公認でデート中の伊月と名前と同様に、高尾もゆったりしたシャツとゆったりしたカーゴパンツというラフなプライベートらしい格好だ。

片手に持ったやたらとファンシーな柄の紙袋が目を引くところではあるが、他校の後輩はそのコミュニケーション力の高さを活かし見知った先輩2人に駆け寄った。


「こんなところにいるとか、もしかしてデートっすか?」

「そうだよ」

「うわ、恥じらいも否定もねぇ!」

「まぁ、事実だし」


何かを超越した青春の謳歌っぷりに高尾はわざとらしく肩を落としたが、彼の相方から聞いていた先輩の性格を考えると、これが普通なのかもしれないと納得してしまいそうだ。

そして彼の知る限り、伊月はクールだがけして冷酷というわけでなく、面倒見のいい優しいお兄さんポジションである。

その2人が休日に寄り添い出掛ける様は、それは穏やかで和やかでさぞ色々な意味で保養になるだろう───と、ここで高尾は現実に引き戻された。

名前から質問が飛んできたからだ。


「高尾くんは買い物?」

「や、ツレん家に行ってただけっす。漫画借りに」


彼と見事にミスマッチな紙袋を顔の高さまで上げてみせれば、先輩2人は成程と頷いてみせる。


「そっか。じゃあこの辺りはそんなに詳しくないよね?」

「あー、まぁ、詳しくないこともないけど…どしたんすか」

「いや、水族館の半券を有効に使えるところで食事でも、って思ってたからさ」

「あぁ、それなら」


伊月がちらりと半券を見せれば、表情を明るくした高尾が後ろを指差した。

そちらに目を向ければ、通りの向こうに見慣れた看板。

比較的安く、かつドリンクバーが充実しているため学生の強い味方であるチェーンのファミレスのものである。


「あそこ、確か水族館の半券でデザートプレゼント、とか幟に書いてましたけど」

「デザートか…どうする?名前」

「和洋折衷何でもあるし、ファミレスいいかもね。高尾くんも来る?」

「えっ、オレも?」


降りかかる火の粉か天からの糸か、そのとき高尾の脳内で凄まじい速さで考えが巡った。

堂々とデートだと言い切った2人と共にファミレスに入り、自分はどう動けばいいのか、と。


「んじゃ、お邪魔しちゃおっかな。行きましょ!」


一瞬の間の後、利益ではなく、好敵手達のブレーキのために、高尾は嬉々として歩き出した。

さり気なく、紙袋を持つ手とは逆の手で名前の手を引きながら。


「おい、高尾…」

「伊月サン、置いてっちゃいますよー」


伊月の牽制も何のその、名前を連れてご機嫌な様子でファミレスへと足を踏み入れた高尾だったが、席へ案内されるとぐったりと項垂れることとなる。

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