「はい」

「はい?」


パフェ用のロングスプーンの先には、砕いたクッキーの上のアイスやクリームに溺れたペンギン。

にこにこと聖母の如く眩しい名前は、間違いなく高尾に掬ったパフェを差し出している。

真ちゃん達どんな神経でこの人と絡んでたんだよ───という心の声をぶつけるわけにもいかず、高尾は甘んじてそれを受け入れた。

口内に広がる甘さは想像よりは控えめで、僅かな羞恥と共にあっと言う間に溶けていく。


「…甘さもクドくないし、これ美味いっすね」

「見た目も可愛いから何個でもいけちゃいそう」

「名前ががっついてるとこなんて見たことないな」

「スイーツ食べ放題ならわりとがっついてると思うよ。今度またリコと行こうって話してるんだけど、俊も来る?」

「いや、邪魔したくないし遠慮しとくよ」


どこのカップルの会話だよ、と思う半面、高尾の脳内は澄み切っていた。

確かに目の前の2人の仲の良さは群を抜いて有り得ないレベルであるが、広い視野で状況を把握しゲームを組み立てることに長けた彼は、違う切り口から攻めれば自分も同じ土俵に立つことは可能であると考えたのだ。

伊月は弱者ではないが、けして手の届かない範囲でもない。

他の部員や緑間にしても、俯瞰図で見れば絶対に穴があるし、そもそもここまで俯瞰で物事を捉えることが出来る人物自体希少だろう。


「何つーか…色々吹っ切れました。てことで名前サン、今度オレともデートして下さい!」

「え?うん、いいけど…予定合えばいいね」

「合わすんで大丈夫っすよ。あ、伊月サン邪魔しないで下さいね?」


わざとらしくウィンクもつけて言ってみせれば、きょとんとした伊月ではあったが、そこは年上の余裕からかその端正な顔を直ぐに綺麗な微笑へと変えてみせる。


「しないよ。やるなら正々堂々…だろ?」

「モチロン!とりあえず、今日家帰ったらソッコー勉強しよっと」

「勉強?」


ふふん、と笑った高尾は脇に置いてあった紙袋をテーブルへと移動させ、中身を取り出した。

2人の前に次々広げられる、ファンシーな紙袋に見合う程目がくりくりと大きな少女が描かれた───少女漫画の単行本。

しかもつい先日発売された最新刊までしっかり揃っており、帯にはTVドラマ化の文言も記されている。


「今ウチのクラスで流行ってんすよ、これ。女子にウケる男になろーぜって言って」

「少女漫画って、女の子から見たキュンが詰まってるもんね」

「秀徳凄いな…てか、それ少女漫画だったのか」


ドラマみたいな展開が名前のお気に召すかはさておいて、頭上高くに飛び立った鷹は獲物を見下ろしほくそ笑んだ。


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