「やっぱ、そうですよねー…」
さも当たり前かのように、伊月と名前が向かいの席へ揃って腰を下ろしたからだ。
そして2人仲良くメニューを眺め、2人仲良く注文を決めていく。
しっかり高尾に話題を振ってくれるあたりがいっそ憎らしいぐらいだが、伊月も名前も普通に他校の後輩を交えて食事をしようとしているだけだった。
「何つーか、ホント仲良いっすよね、伊月サンと名前サンって」
「まぁ、クラスも部活も一緒だしな。ついでに委員も一緒だし」
伊月が名前に視線を送りながら言えば、名前もそれを受け止めながら言った。
「うん。でも俊は優しいから、大体誰とでもこんな感じだよ」
「そうかな?」
「そうだよ。違うの?」
「あー、モテそうですしね、伊月サン」
「学校が違う高尾くんもそう思うんだ…」
一歩間違えると痴話喧嘩か惚気か怪しいところではあるが、世の高校生にとって飽きないネタのお陰で運ばれてきた食事に手をつける間も会話は尽きない。
結論としては、イケメンかつ勉強も出来て運動も出来て、姉妹に挟まれた長男だから女性の扱いもオッケーでモテる、ということで、散々客観的に持ち上げられた伊月は終始苦笑いである。
「ちなみに、名前サンの好きなタイプってどんな人なんっすか?」
「うーん…よく訊かれるんだけど、言葉にはしにくいって言うか…」
高尾だけでなく伊月の双眸まで一瞬鋭く輝いたことに気付くはずもなく、食後のパフェを前に名前は首を捻った。
バニラアイスや生クリームで氷山を、水色のゼリーでイルカや魚を模してあるこのパフェは、水族館の半券特典のものだ。
銀色の粒も散らばるそれはなかなかのボリュームであるが、女子供には大層好まれそうなデザインである。
「じゃあ、年齢は気にしたりします?学歴とかは?」
「年齢も学歴も気にしないかな。私がバスケが好きで、ずっと真剣に打ち込んできたってことを否定しない人なら」
「そこ大事っすよね」
「あ、そう言えば名前、この間パソコン部の奴に呼び出されてなかったっけ?」
隣で黙々とコーヒーゼリーをつついていた伊月は、スプーンに一口分それを掬うと名前の口元へ差し出した。
照れたようにはにかんだ後、短く礼を述べた名前は、さも当たり前のようにそのまま薄く唇を開き、招き入れたそれを咀嚼し嚥下してみせる。
「呼び出されたけど、普通に話をしただけだよ。友達になってほしいって言われたから、廊下で会ったら挨拶するぐらいかな」
「……………………マジかよ」
何事もなかったかのように会話は続いていたが、この自然に行われた動作は、高尾が記憶する限り男女の友情の間ではあまり行われないであろうものだ。
2人が恋人同士であればまだしも、付き合っていないし、ただのクラスメートで同じ委員の部活仲間であると言い切っているのだから余計目に留まる。
そんな、真正面に置かれたパフェの中のペンギンらしきゼリーを見つめたまま、すっかり放心状態の高尾にトドメを刺したのは、やはり何かが普通から逸脱した名前だった。
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