一瞬不穏な空気も漂った幼馴染みとの地元での飲み会は、征ちゃんの凛とした一言でお開きになった。

明日仕事組は文句言いながら帰り支度をしているけど、私はちゃっかり休みだから余裕はある。

終電にも余裕あるし、この熱を冷ましながらゆっくり帰るのが正解だろう。


「じゃあ私こっちだから」

「待つのだよ、瑞希」


片手で眼鏡を押し上げ、名前と同じ緑の双眸で見下ろしてくる真ちゃんは、そう言って私を引き止めた。

大人しく帰りかけた体を戻せば、彼は意外な一言を続ける。


「送っていく」

「え…!?」

「何だその顔は」


不満げに眉根を寄せた真ちゃんだったけど、私は別に送ってもらうのが嫌でこんなリアクションを返したのではない。

なんだかんだで優しかった真ちゃんが、会っていなかったうちに変わっていなかったという事実が素直に嬉しかったのだ。


「いや、嬉しくて…でも真ちゃんこっちだっけ?」

「病院までの通り道なのだよ」


何でも、真ちゃんはこんな時間なのに一度勤務先の病院に戻るらしい。

そのために車で来たし、さっきまでもアルコールは一滴も飲んでいなかったと言うのだ。

私より賢いのは分かってたけど…さすが真ちゃんだわ。


「1人で帰って怪我でもされたら面倒なのだよ」


フン、と蔑むように鼻を鳴らされたけど、これは照れ隠しだと思いたい。

私としても、電車で帰るより車の方が遥かに助かる。


「じゃあお邪魔します」


遠慮なく車に乗り込んだはいいものの、車内は真ちゃんらしく片付けられていて本当にお邪魔していいのか戸惑うぐらいだった。

しかも助手席だし、何だかそわそわしてしまう。

どうしよう、何か喋らないと落ち着かない。


「って、ええ!?」

「煩い騒ぐな」


真ちゃんの大きな手が肩に置かれたかと思うと、次の瞬間には真ちゃんが目の前を横切っていった。

彼のもう片手は私の逆の肩口へ───いや、シートベルトぐらい自分で出来るから!


「………ありがと」


眉間に皺を寄せながら無言で私のシートベルトを締めると、真ちゃんは何事もなかったかのように車を発進させた。

私の心臓は全く穏やかじゃないし、何だか酔いも吹っ飛んだみたい。


「ねぇ真ちゃん」

「何だ」

「またこうして集まれたらいいね」


真っ直ぐ前を見て運転する真ちゃんは、整った顔立ちも相俟って綺麗だった。

街灯に照らされたその横顔が僅かに綻ぶ。


「……煩いのはゴメンなのだよ」

「それは諦めた方がいいんじゃないかな。メンバー的に」


今日のメンバーが集まったら、涼太辺りが静かなわけないもんね。

でもきっと、どれだけ騒がしくても面倒臭くても真ちゃんなら来てくれると思うんだ。


「って、自分で言っといてだけど、皆仕事忙しそうだし当分難しいかも」

「まぁ………オマエが来いと言うのなら善処するのだよ」

「ありがと。さすが真ちゃん!」

「…………」


不満げに横目で見下ろされたけど、怖くなんかないから!

てか褒めたつもりなんだけど!

あえて口には出さず目だけで訴えた後、私はシートに体全体を預けた。


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