一瞬不穏な空気も漂った幼馴染みとの地元での飲み会は、征ちゃんの凛とした一言でお開きになった。
明日仕事組は文句言いながら帰り支度をしているけど、私はちゃっかり休みだから余裕はある。
終電にも余裕あるし、この熱を冷ましながらゆっくり帰るのが正解だろう。
「瑞希っち待って!一緒に帰ろ」
「え、涼太こっちだっけ?」
「えー、さっき方向一緒って話したじゃないっスかぁ!」
「アンタと大輝が喧しかった記憶しかないわ」
「ヒドッ!」
泣き真似してみせる涼太を引き連れ、私達は電車に乗り込んだ。
適当に空いた席に座って、見慣れた景色が流れていくのをぼんやり見つめる。
なんだかんだでやっぱり顔はいいし、TVでも度々取り上げられているプチ有名人な涼太といると騒がれるかと思ったけど、時間が時間のせいかその心配は杞憂に終わりそうだ。
「瑞希っち」
「んー?」
「オレ寝そうっス」
「寝たら起こさず放って置くから」
「えっ、やっぱヒドくないっスか!?」
私の中での彼のイメージが弄られキャラのせいか、どうしてもこうやって遊んでしまう。
可愛くないなぁ、私。
いやまあ勿論本音でもあるんだけど。
「はー、明日仕事とかマジ無理っスよ〜」
涼太も弄りには慣れているのか、溜め息を吐き出すと何事もなかったかのように私の肩に凭れかかってきた。
さらりと擦れる髪が擽ったいのと同時に、触れ合っている肩の温かさにどんどん侵食されていく。
「涼太」
咎めの色を滲ませて声をかけるも返事はなかった。
此処からは見えないから、涼太がどんな顔をしているかは分からない。
けど、もしかしたら本当に寝ちゃってるのかも。
私には想像もつかないけど、やっぱり大変だよね、パイロットって。
鉄の塊を操るだけじゃなくて、人の命も預かるんだし。
仕事中は誰だって集中するだろうけど、私のとはレベルが違うと思う。
「涼太ってば。もうすぐなんだし、起きとかないと」
やっぱり返事はない。
肩を動かして無理矢理頭を動かしてやれば嫌でも起きるだろうと思ったけど、今の私にその行動に出る気は起きなかった。
もうちょっとこのままでもいいかな、って。
「………涼太」
「大丈夫、寝てないっスよ」
うわビックリした。
普通に起きてるんじゃん。
「起きてたんだ」
「起きてる…けど、駅着くまでこのままでいいっスか?」
記憶の片隅に残っているものと同じ、優しくて弱々しい声音。
私の知ってる涼太は、いつも煩くて、テンション高くて、勉強以外は結構器用にこなしちゃうイケメンで、何気にスタイルもセンスも良くて、それでいて弄られキャラなのに、こんなにしおらしいと調子狂う。
「………いいよ」
それから先に降りる私の最寄り駅に着くまで、特にこれと言って会話はなかった。
静かに動く景色を眺めていると、段々現実に戻っていくような不思議な感じもしたけど、何より肩に擦り寄ってくる涼太が夢ではないのだと教えてくれていた。
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