一瞬不穏な空気も漂った幼馴染みとの地元での飲み会は、征ちゃんの凛とした一言でお開きになった。
明日仕事組は文句言いながら帰り支度をしているけど、私はちゃっかり休みだから余裕はある。
終電にも余裕あるし、この熱を冷ましながらゆっくり帰るのが正解だろう。
───と思っていたのは5分前の私。
今は何故か、本当に何故か、真っ黒な艶やかなボディに広々としすぎな車内が特徴的な、征ちゃん家の車に乗っています。
肩身が狭すぎる。
征ちゃん家と言えば、かの有名なあの赤司家であって、つまり私なんかがよく幼馴染みやってるなってぐらい格上なお宅であって、とにかく全てが規格外の名家なのだ。
そんな私が征ちゃんの車で送ってもらってるなんて、もう緊張しかない。
そもそも、征ちゃんとちゃんと会うのも結構久しぶりだし。
「かなり飲んでたみたいだけど、酒は強いの?」
スッと細められた赤い瞳に見つめられる。
さすが征ちゃん、私が大輝と涼太に飲まされてたの見てたんだね。
「強くはないけど、そんなに弱くもないよ。酔って潰れたこともないし」
「ならまだいいけど、あの飲み方は止めておく方がいいだろう。相手があの2人だからいいものの、他では隙がありすぎる」
「うん、分かった」
この諭すような注意、間違いなく征ちゃんだ。
昔から頭が良くカリスマ性も凄かった征ちゃんは、困っていれば知恵を貸してくれたし、何かあれば必ず守ってくれていた。
何処から見ても完全無欠な凄い人に、こんなに甘えていていいのだろうか。
「あれ、ねぇ征ちゃ……あ、じゃなくて」
「その呼び方で構わない。どうした?」
ついうっかり口走っちゃったけど、征ちゃんは気にした様子もなく続きを促してくれた。
「あの…これ私の家に向かってないよね?」
「あぁ、そうだね」
「そっ……かぁ」
そんな端正な顔で微笑まれたら言い返すことも出来ない。
まさかとは思うけど、行き先って……。
「心配しなくていい。既に連絡をして、お母様から宿泊の許可は得ている」
「はい?」
「勿論キミのお母様にだよ、瑞希」
いやいやいやいや、さも当然みたいに言ってるけど、家に連絡入れてお母さんに交渉した内容が宿泊って何?
胸中にはそれはもう沢山の疑問とツッコミが渦巻いてるけど、それを全部口にする勇気は生憎持ち合わせていなかった。
赤司家所有の車の中、密室。
赤司家お抱えであろう運転手と長男しかいないこの空間で、私の選択肢に否など存在しないのである。
「征ちゃん、一応訊いておくけど、行き先ってもしかしなくても…」
「父さんが瑞希の顔を見たがってるんだ。すまないが協力してほしい」
ですよね。
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