一瞬不穏な空気も漂った幼馴染みとの地元での飲み会は、征ちゃんの凛とした一言でお開きになった。

明日仕事組は文句言いながら帰り支度をしているけど、私はちゃっかり休みだから余裕はある。

しかもこれまたちゃっかり、今日は実家に泊まる手筈になっているのだ。

お会計も終えて、さぁじゃあ皆に別れを告げて帰るかと思ったとき、私は盛大に膝から崩れ落ち、そして───今に至る。


「ごめんね、あっくん。今度お菓子貢ぐから」

「楽しみにしてるねー」


私は出来る限り身を縮こませながら、大きな背に揺られていた。

まさかあのタイミングでヒールがポッキリいって捻挫するとは思わなかったし、あっくんが家まで背負ってくれることになるなんて……ホントごめんなさいとしか言えない。

あの面倒臭がりなあっくんが、まぁ瑞希ちんぐらい背負っても別にどうってことないよー、って言ってくれるなんて思ってもみなかったよマジで。

多少リップサービスもあると思うけど、それでも大変有り難いですありがとうございます。

……応急手当てしてくれた真ちゃんのあの顔は、今日夢に出そうだけど。


「そー言えばさー、瑞希ちんは来たことないよね、オレの店」

「ないよ。雑誌とかTVでは見るけど、いつも混んでるみたいだし」

「そんなに食べたいの?ってぐらい皆来るんだよねー」


それあっくんに言われたら終わりなんじゃ…とも思ったけど、多分本当に来客数は凄いんだろう。

お洒落なカフェと洋菓子店が併設されてるから、曜日問わず店内は女性客で溢れかえってるってTVでもやってたし。


「そりゃああの天才パティシエ、紫原敦の作品を味わえるんだもん。皆食べたいよ」

「瑞希ちんもー?」

「うん。さすがにあの行列には勝てないと思うけど」


開店から閉店まで途切れることのない行列は、常に何時間待ちというレベルだと聞いたことがある。

テーマパークもびっくりな待ち時間と混み具合に、私は到底勝てそうにない。


「じゃあ開店前か閉店後に来たら?」

「…は?」

「待ち時間も混み具合もゼロだけど」


いや確かに仰る通りですけども。


「でも営業時間外に行くのも悪いし…」

「食べたくないの?」


食べたいです。

って本音即答するのも何か…やっぱ申し訳ないって言うか何て言うか。


「…………。」


ああ駄目だ、ここから顔は見えないのに、あっくんにいつものあの目で見下ろされてるような気がする。


「食べ…たい…です」

「また連絡するね〜」


ゆっくり過ぎていくいつもより高い景色の隅に実家が映ったのを確認してから、私はそっと瞼を下ろした。

美味しいんだろうなぁ、あっくんのケーキ。


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