一瞬不穏な空気も漂った幼馴染みとの地元での飲み会は、征ちゃんの凛とした一言でお開きになった。

明日仕事組は文句言いながら帰り支度をしているけど、私はちゃっかり休みだから余裕はある。

終電にも余裕あるし、この熱を冷ましながらゆっくり帰るのが正解だろう。


「帰るぞ」

「え?」


後ろから短く帰宅を促した低い声の持ち主は、あっさり私を追い抜くとどんどん先を歩いていく。


「ちょ、待ってよ大輝!さつきは?」


店の前でまだ話している面々の中に、桃色の髪は見当たらない。

なんだかんだで幼馴染みの中でも腐れ縁感の強い大輝とさつきは、私の中でもはやセットになってしまっている。

だから当然一緒に帰ると思ってたんだけど…もしかしてもう行っちゃったのかな。


「アイツは実家に泊まるんだとよ。つかいい加減セット扱いやめろ」

「痛っ」


やっと追い付いて隣に並んだと思ったら、理不尽なデコピンが飛んできた。

いや意味分からないし、地味に痛いし。


「ちょっと大輝」

「お、ちょーど電車来た」


無視か!

マイペースな大輝に続いて乗客も疎らな電車に乗り込み、私は大きく溜め息を吐いた。

さっきまで散々飲み食いしたものも吐き出してしまいそうな程、大きな溜め息を。

昔からやんちゃ坊主だったし、まあ今更っちゃ今更な気もするけど…かるーく振り回されてるよね、これ。

てか、いくら空いてるからってそんなにどっかり椅子占領していいのか、警察官よ。


「座んねーの?まだ先なんだろ?」

「座るし先だけど……私最寄り駅言ったっけ?」

「さつきに聞いた」

「あー…」


大輝から少しだけ離れたところに腰を下ろせば、彼は横目で私を確認してからぶっきらぼうに言った。

そう言えば昔から、さつきは半端ない情報通だった。

彼女には以前会ったときに大体あの辺りに住んでいるという話しかしてないけど、最寄り駅どころか家の場所まで特定されていてもおかしくはない。


「大輝も今こっちに住んでるんだね」

「や、家はあっち」


スッと伸ばされた人差し指が示す先は、進行方向と真逆である。


「何で同じ電車乗ってるの?逆でしょ?バカなの?」

「オイ!さつきが瑞希が心配だから送って帰れってうっせーんだよ」

「さつきに言われたら何でもするの?バカなの?」


何か見えない策略が渦巻いてる気しかしない。

思わず声を荒げた私に、大輝は鬱陶しげに眉を顰めた。


「仕事で結構行くからこっちの方も土地勘あるし、オマエ1人で帰したら何か巻き込まれそーだろーが」

「前半はまあいいとして、私を何だと思ってるわけ?」

「いーから送られろよ。その方がオレも都合いーわ」

「痛っ」


本日2度目のデコピン、額にクリーンヒット致しました。

まあ優しさってのは分かったけどさ…何だろうこのスッキリしない感。

この後しっかり自宅マンションまで大輝は送ってくれたんだけど、部屋に入ってから漸く見た携帯のメールに私は再度大きな溜め息を吐くことになった。

勿論差出人は………ピンクの小悪魔である。


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