「あ、そっか。あっくんパティシエなんだよね」
「ん〜?そーだよー」
美味しそうなタルトが彼の口へと消えていく。
あっくんが食べてるとこ見ると、何でも美味しそうに見えるのは昔から変わらない。
「すまない。遅くなった」
と、そのとき音も立てずに個室の扉が開いた。
代わりに響いた凛とした声や佇まいはあの頃のままだが、見慣れないはずの和服姿が似合いすぎている彼は、間違いなく赤司征十郎だ。
幼馴染みメンバーの中で群を抜く頭の良さとカリスマ性を持っていた彼は現在、プロの棋士として活躍している。
涼太と同じように何度かメディアで見かけたけど、本当にいつ見ても完璧としか言いようがなかった。
まじ征ちゃん凄い。
……征ちゃんって呼んだら怒られるかな?
「僕が最後じゃなかったのか」
「うん、後はさつきだけだけど、もうすぐ来るみたい」
征ちゃんが席につき、これで本当に後はさつきを残すのみだ。
テツヤくん、涼太、真ちゃん、大輝、あっくん、征ちゃん、そしてさつき。
すっかりバラバラになった幼馴染み8人がこうして集まることが出来たなんて、奇跡だと思う。
「あ、そー言えば瑞希っちに訊いときたいことがあるんスけど」
夢心地だった私を現実へ引き戻したのは、涼太の一言だった。
「まだ結婚してないっスよね?」
「うん、してないよ」
「じゃあ彼氏は?」
悔しいけど、どうせこのイケメンパイロットは女に困ることなどないのだろう。
他の皆もなんだかんだでカッコいいし、さつきも学生の頃から美人で有名だったし…。
「いない…けど」
劣等感に苛まれながら私が返答するや否や、室内の空気が変わった。
え、何これ。
急に居心地が悪くなり、背に嫌な汗が流れていく。
ちょっと何か喋ってよ。
「ごめーん、遅くなっちゃったー」
「さつき!」
空気を裂くように、ばたばたと騒がしく駆け込んできたのは、言わずもがな桃井さつきである。
私は彼女を押し倒さん勢いで、思い切り飛び付いた。
「聞いてよさつき、皆が私がフリーなのバカにするの」
「え?え?」
来たばかりで意味が分からないだろうさつきは戸惑った様子だったが、瞬時に事態を把握したらしい。
「テツ君はいいとして…瑞希は簡単には渡さないからね!」
「え?」
反対に疑問符を浮かべることとなった私のことは置いてきぼりで、幼馴染みたちは火花を散らし始める。
え、だから何なのこれ。
幼馴染みたちとの再会が幼馴染みたちとのラブコメの始まりになろうとは、このときの私はまだ知る由もなかった。
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