大人も子供も乗れるタイプのゴーカートにクイズ形式の迷路にあまり回らないコーヒーカップ、今流行りのアニメとコラボしているらしいスタンプラリー…どれもこれも、この歳になって騒ぐとは思わなかった物だけど、何故か私は夢中になって楽しんでしまっていた。
表情こそあまり変わらなかったものの、テツヤくんも楽しんでいたと思いたい。
まぁ彼の場合仕事も絡んでいるわけだから、そっちの方面から見ていたかもしれないけど。
「瑞希さん、高いところは大丈夫でしたよね」
「うん」
「次、あれ乗りませんか」
テツヤくんが指差したのは、昔からこの遊園地のシンボルとして聳え立っている大型観覧車だ。
何の変哲もない普通の、それはもう典型的な観覧車だけど、デザインといい錆付き具合といい、なんて言うかかなり月日を感じさせられる。
「何か…止まりそうだよね」
「はい。止まられると困りますが」
並んでいる人も少なく、私たちは待ち時間もそこそこにゴンドラに乗り込んだ。
「あ、あそこ」
段々高くなるにつれて、私たちの視界が開けていく。
窓に張り付いたまま奇抜な形の建物を指を差すと、向かいの席でテツヤくんも小さく声を漏らした。
「科学館ですね。小学校の遠足で行った」
「そう、それ!やっぱりそうだよね、懐かしいなぁ」
ちょっと不安はあったけど、私の記憶は間違いじゃなかったらしい。
見慣れた景色から、記憶の片隅に眠っていた景色まで、色々なものが次から次へと飛び込んでくる。
その喜びを噛みしめていたら、急にガコンという音と共に体に強い衝撃を感じた。
「───っ!?」
「瑞希さん、大丈夫ですか?」
『───ません、ただ───まして、停止───』
手摺りを掴みながら頷くと、ゴンドラ内に設置されていたスピーカーから、係員らしき男性の声が聞こえてくる。
しかし、これも歴史が長いせいなのか、ノイズが酷くて何を言っているのか全然分からない。
「何かあったのかな」
「放送がしっかり聞こえなかったので違うかもしれないですが、機械トラブルというわけではなさそうですよ」
確かに、先程のアナウンスは機械トラブルの案内というよりは何か事情を説明しているようだった気がするし、隣のゴンドラに乗っている人たちも慌てている様子はない。
それでも、宙に浮いたままというのはどこか落ち着かなかった。
ほぼ頂上まできていたため、かなりの高さから見る景色はもはや恐怖を煽る材料でしかないのだ。
時折風に吹かれ、きしきしと軋みながらゴンドラが揺れるのも胸を騒がせる要因となっている。
「瑞希さん」
「ん?」
「そっちに座ってもいいですか?」
「…え?」
私の返事を聞く前に、テツヤくんは静かに私の隣へ座り直した。
心の中を読ませてくれない双眸に、浮かない顔をした私が映り込んでいる。
「大丈夫ですよ」
「大丈夫…」
「はい。ボクは此処にいます。だからそんなに不安に思わなくて大丈夫です」
「………テツヤくん……」
忘れかけていたけど、一見儚げな彼は、昔からこちらが吃驚する程逞しく男らしい人だった。
一回り大きく骨ばった手が、椅子についたままの私の手に重なる。
あったかい。
「ありがとう」
「瑞希さん?」
「テツヤくんがいれば、私何でも頑張れる気がする」
凄く恥ずかしいことを口走ったような気がして誤魔化すように笑えば、テツヤくんは一瞬きょとんとした後、穏やかに言った。
「貴女にとって、ボクがそんな存在になれたら光栄です」
それからすぐ、観覧車は動き出した。
途切れ途切れのアナウンスから察するに、どうやらゴンドラに上手く乗れない人がいたから安全のため一時停止となったようだ。
理由も分かって、もう何も怖いものはないはずなのに、テツヤくんはその場を動かなかったし、下に着くまで重なった手が離れることもなかった。
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