それからちょっと歩いて、私たちの前に現れたのは、住宅街の一角にある歴史を感じさせるような昔ながらの公園だった。

小さな滑り台に木で出来たベンチ、玩具が置きっぱなしな砂場───何だろう、この胸のざわつきは。


「瑞希は覚えていないかもしれないね」


ぽかんとしていたのがバレていたらしく、征ちゃんは僅かに笑いながら言った。


「昔、来たことがあるんだよ。猫を追っているうちに迷ってね」

「………あ!」


そうだ、そうだった。

まだ幼稚園に通っていた頃、近所を歩いていた猫を追いかけていたら、いつの間にか見知らぬ公園に来てしまっていたことがあった。

それがこの公園だ。

私がふらふらと歩いていったのを見ていた征ちゃんがひっそりついてきてくれて、しかも帰り道までしっかり覚えていてくれたから怒られずにすんだわけだけど、私1人なら確実に帰れてなかったと思う。


「思い出した!あのとき征ちゃんがいなかったら絶対帰れなかったよ。今来てみれば、家からそんなに遠くないんだけど」

「いい大人になった、ということじゃないか?」

「そうだったらいいなぁ」

「大人になった───綺麗になったよ、瑞希は。幼い頃は可愛かったけどね」

「は!?」


射抜くように赤い双眸に見つめられ、思わず変な声を出してしまった。

顔が熱を帯びていくのが分かる。

お世辞だから落ち着けといくら心の中で唱えても、聞いてくれそうにない。

何でそんなことさらりと言ってくれちゃうの!?


「さすが征ちゃんまじ怖いさすが征ちゃん」

「何か言ったかい?」


思わず声に出てしまったらしい。

私は慌てて首を振った。


「ううん、征ちゃんの記憶力が凄いなって思っただけ」

「瑞希とのことは全て覚えている自信があるよ。例えキミが覚えていなくても、ね」


…………私何か大事なこと忘れてるのかな。

ふわりと綺麗に微笑んでくれた征ちゃんは、整った容姿も相俟ってそれは目の保養になるぐらい綺麗だったけど、何か引っ掛かる。

それから、胸に渦巻きだした不安を吹き飛ばしてくれるぐらい紳士な征ちゃんにエスコートされて、私のテンパりまくりな休日は無事に終わったのだった。


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