いよいよ閉店時間になり、店の前にCLOSEの看板がかかると、席まで案内してくれた店員さんや、キッチンから現れた美人なお姉さんが店内の片付けを始めだした。
「あー、アンタ敦の友達だろ?ちょっと周りは騒がしいけど、皆事情は知ってっからゆっくりしとけよ」
「はい、すいません。ありがとうございます」
「敦のスイーツはマジ美味いから。晩飯食えねーぐらい食って帰れ…」
「無駄口叩いてないでさっさとしろ」
「すんませーん」
美人なお姉さんに注意され、そそくさとお兄さんが去った後、入れ替わりでやってきたのはあっくんだ。
両手に抱えたトレンチの上は、3段のショートケーキのホールにバスケットいっぱいのクッキーとマカロン、お洒落なガラスの器に入ったゼリーにプリンなどなど、とにかく甘いもので埋め尽くされていた。
それをぎっしりテーブルへ並べると、さも当たり前のようにあっくんは向かいの席へ腰掛ける。
そしてまた、さも当たり前のようにそれらを食べ始めたのだった。
「瑞希ちん食べないのー?」
「……………………いただきます」
手近なクッキーを口に放り込むと、さっくりとした食感と仄かな甘さが口内に広がる。
「美味しい…!」
「当たり前だしー」
ふんと鼻を鳴らしたあっくんは、大きく切ったロールケーキを口いっぱいに頬張った。
見るからにふわふわそうなチョコロールケーキは、それは美味しそうに見える。
実際美味しいんだろうけど。
「…食べたいのー?」
そんなに凝視していたのだろうか、ゆるりと首を傾げたあっくんは一口サイズに切り分けたロールケーキを差し出してくれた。
フォークの上のロールケーキは、きちんと私の一口サイズだし、きめ細やかなスポンジとクリームは食べてと言わんばかりである。
「あーん」
「いただきます」
口内に広がる食感、味は想像以上だった。
数々の大会で優勝を飾り、毎日店先に長蛇の列を作るスイーツと言われて納得である。
「これ来週から販売のやつ」
上品なチョコに舌鼓を打っていると、今度は真っ白な生クリームが差し出された。
どうやら新作のショートケーキらしい。
淀みのない白も見るだけで食欲をそそられる。
差し出されるままに口を開けば、期待以上の舌触りだ。
「こんなに生クリームで覆われてるのに、後味残らない甘さだし、ふわふわでしっとりだし…さすがあっくんだね。私じゃ絶対作れない」
「瑞希ちんが作れるなら、みんな作れるでしょ」
なんて失礼な。
一人暮らしなんだから、最低限の料理ぐらい出来るし。
そう思ったのが顔に出ていたのかは分からないけど、それからもあっくんはテーブルに所狭しと並ぶスイーツを次々と差し出してきた。
完全に親鳥に餌をもらう雛状態だ。
何でか知らないけど食べさせてもらってるし。
「まぁ瑞希ちんが食べたいってゆーなら、また作ってあげないこともないかもー」
「客として来たら絶対作るしかないけどね」
「来週発売のショートケーキとこのクッキー以外、メニューにないやつだし」
「え!?」
さっきもらったロールケーキもタルトもマフィンもシュークリームも、全部全部メニュー外のスイーツ!?
私の動揺なんて素知らぬ顔で、あっくんはワッフルをぺろりと平らげるとあっさりと言った。
「似たようなやつは置いてるけど、これは瑞希ちん用に作ったやつ」
開いた口が塞がらないとはまさにこのことか。
此処に並べられているもののほとんどが特別メニューだなんて、普段のあっくんからは思いも寄らないVIP待遇だ。
普段って言っても、高校生になってからは会ってなかったわけだから、もう私が知ってるあっくんとは全然違うのかもしれないけど。
「ありがとう…」
「…どーいたしましてー」
素直にお礼を口にすると、あっくんは一瞬ムッと口を尖らせると、思い出したかのように続けた。
「あ、でもこれ以上重くなられると困るかもー」
………それは言わないでほしかったかな。
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