化粧よし、髪の毛よし、洋服よし、腹具合よし。

いつもは人気すぎて大行列なカフェと洋菓子店が併設されたお洒落な店の前で、私は1人意気込んでいた。

何と言っても今日は、例の飲み会で約束したあっくんの勤務先に行く日なのだ。

閉店後に特別メニューを出してくれるというのだから、気合いも入るというものである。

お客さんが全員帰るまで少しだけ待って、と言われたけど、それだけですむなら喜んで待たせてもらいたい。

と言うわけで閉店10分前、私は何故か緊張しながら店内へ足を踏み入れたのだった。


「いらっしゃいませー」


営業スマイルが眩しいお兄さんに案内され、店の奥の二人掛けの席へ腰掛ける。

そのお兄さんは私があっくんの友人と知っているらしく、ドリンクの注文を取ると目配せして去っていった。

なんだかんだで後5分少々で閉店だと言うのに、店内はまだ大勢の人で賑わっている。

でもそれが騒々しいと感じないのは、この雰囲気のせいだろう。

茶を基調とした洋風な店内は、アンティークな家具のせいもあって落ち着いているし、それに影響されてか客の会話も控えめだ。

ざわざわではなくひそひそと言った声は聞こえるけど、気にならない程度に流れているクラシックがお洒落で、何て言うか、人気な理由が分かる店である。

心なしかお客さんもお洒落な綺麗系の人が多い気がする。

ちょうど目線の先にある席に座っているお兄さんだって、きっと美人な彼女、もしくは奥さんがいるんだろうなぁって感じの綺麗な人だ。

年上と思われる落ち着いた雰囲気に、服の上からでも分かるぐらい細身だけど引き締まった体躯、サラサラそうな黒髪、手元の本に落とされた瞳もきっと綺麗に違いない。

うん、やっぱりイケメンって目の保養になる。


「おまたせー」


間延びした声に顔を上げると、そこにはドリンク片手に佇むエプロン姿のあっくんがいた。


「あっくん…!」

「もーちょっと待っててねー」


私の返事を聞かぬまま、あっくんはのろのろと戻っていく。

その背を見送って、持ってきてくれたドリンクに目を向けると、視界に入るはずのさっきのイケメンさんはもういなくなっていた。

閉店数分前だから当たり前なんだろうけど、これはちょっと残念かな。


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