「っしゃ…これで文句ねーだろ!」


思わず口が開きっぱなしになった、屋内プールにあるまじき白熱した対決が終わった。

結果はまさかの誠凛勝利。

誠凛トリオには悪いけど、あの黄瀬と緑間と高尾くん相手だし、ぶっちゃけキツいと思ってました。


「名字行くぞ」

「え、ちょ、何処に!?」


拒否権をくれないらしい火神に手を引かれ、私は膨らませてもらった浮き輪を引き摺りながらついていった。

きょとんとしたテツくんと降旗、ぎゃんぎゃん吠えてる黄瀬、驚愕露な緑間に、それを見て大爆笑な高尾くんが段々遠くなっていく。

彼らの姿どころか声も聞こえなくなったところで、火神は漸く足を止めた。

私の視界には、水滴が伝う綺麗に筋肉が張った逞しい背中しか入らない。

火神がこっちを見ないからだ。


「火神…」

「何だよ。黄瀬とデートが良かったのかよ」

「や、そうじゃないけど」


あの黄瀬とプールデートだなんて、いろんな意味で恐ろしすぎる。

そもそもあの条件飲んだ覚えないし───って、あれ?


「じゃあ火神がしてくれるの?」

「!?」

「プールデート」

「!!?」


この図体からは想像つかないぐらい、それはもう面白い程にリアクションが返ってくる。

彼が、自身の大嫌いな犬を前にしたときレベルの反応だ。


「まぁ勝ったもんね、誠凛。うん」

「何1人納得してんだよ」


じと、と目だけで見下ろしてくる火神は照れているのか、心なしか顔が赤い気がした。

ちょっと、私が恥ずかしくなるじゃんか!


「私浮き輪でぷかぷかしてるから、火神引っ張ってね」

「…勝手に流されても探すの面倒だしな」

「流れるプールなんだから普通流されるし」

「そーじゃねーよ」

「痛っ」


馬鹿にしたように笑いながら、火神は私にデコピン1回。

勿論加減はしてくれてるだろうけど、痛いものは痛い。


「ほら、行くぞ」

「うん」


冷たい水へ体を沈めてから、私は浮き輪の真ん中に立った。

隣には火神がいて、浮き輪が流れないようさり気なく手を添えてくれている。

見た目によらずって言うと失礼かもしれないけど…優しいよね、火神って。


「よし火神、出発!」

「出発って、流されてるだけだろーが」


私は浮き輪にしがみついてぷかぷか、火神は浮き輪についた紐を持ちながら、流れに身を任せる。

何の変哲もない(?)ただの夏休みの1日、なんだかんだで来て良かったかなぁ…なんて。




───この後、何処から持ってきたのか水鉄砲を構えた黄瀬たちの強襲に遭い、火神がキレることになるんだけど…これもいい思い出だよね!


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