「お兄ちゃん次わたしー!」
「オレもオレもー!」
「わーたーしーもー!」
「よし分かった。みんな順番にな」
「「はーい!」」
体は大きいが、見た目も中身もとびきり優しい彼が見ず知らずの子供達に囲まれている姿は、寧ろ誇らしいぐらいでけして悪いものではない。
しかし、ひょんなことから彼が保父さんのようになってから、かれこれもう数十分経過。
その間完全にほったらかしで、1人浮き輪に掴まってぷかぷかしながらそれを眺めるしか出来ない彼女って…辛くない?
いや勿論、私だってあの輪に入れないことはないけど、着替えを終えてプールサイドに着いたら既にこの状態だったから、その中に割って入って中断させるなんて出来なかった。
鉄平も、多分初対面であろう小学生ぐらいの子供達も、凄く楽しそうにはしゃいでるんだもん。
病院生活の長かった彼が目一杯羽を伸ばすことが出来ているのなら、やっぱり私も嬉しい。
「………でもいつ終わるんだろ」
正直、プールデートの時間は減るし、こっち見てくれないしでちょっと寂しいとは思う。
無邪気に遊ぶ子供達にまで嫉妬しちゃうとか…嫌な奴すぎでしょ、私。
「名前、こんなところにいたのか」
「鉄平…」
「スマン、ちょっと遊んでてな。遅くなった」
知ってるし、見てたし、てか何で鉄平が謝るのよ。
しかもいつの間に目の前に?
「私が着替えるの遅かったせいだから…もういいの?」
「ああ。オレたちも負けてられないからな!」
え、何が?
「せっかくプールに来たんだ。遊び尽くさないと損だろ?」
「え……うん」
それには賛成なんだけど、鉄平はさっきの少年少女達から一体何を学んだんだろ…。
「焼きそばとかき氷は食わないとな。そうだ、向こうのたこ焼きも…」
「いや祭じゃなくてプールだからね、此処」
思わず声に出してツッコんでしまった。
日向くん、ほんといつもお疲れ様です、ありがとう。
「それ食べるのもいいんだけど、せっかくだからスライダーも乗りたいし、その…鉄平と色々騒ぎたい、から…」
ああもう何言ってんだろ、私。
本音は本音だけど…恥ずかしい。
「そうだな」
ふわりと鉄平は微笑んだ。
しっかり鍛えられた大きな体に不釣り合いなぐらい、優しくて甘い笑み。
何でこんなカッコいいんだろ。
何でこんな優しいんだろ。
居ても立ってもいられなくなって、私は浮き輪から抜け出すと厚い胸板へと飛び付いた。
「名前?」
優しく背を撫でてくれる大きな手も、頬を擦り寄せた胸元も少しひやりとする。
照れ隠しにぐりぐりとしていたら、頭上から笑い声が振ってきた。
「なぁ、名前。今日はずっと一緒にいような」
返事の代わりに抱き付く手に力を込める。
「鉄…」
──────しまった。
此処、思いっきりプールの中だし…公共の場で…これ…ちょっと…うわぁどうしよう。
一気に現実に帰って血の気引いたんだけど、どうにかなる、かな…?
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