「名前、あの人…」
「あの右側の人?」
「そう。大学生かしら…」
「年上っぽいよね。数値凄いの?」
「キセキの世代程じゃないけど…バスケするのに理想的な体ではあるわ。やっぱりウチもプロテインを…」
「あ、リコあっちの人は?」
誠凛男子バスケ部主将・日向順平と、同じく会計・伊月俊は目の前の女子2人から繰り出される、この場に似付かわしくないセリフの数々に唖然としていた。
かんかん照りと言えるぐらいに太陽が照りつけている8月の某日、同い年・同じ部活の男女4人が屋外プールに来ている───こう見ると一見青春真っ只中のWデートのようであるが、実際そんな展開は微塵もないのである。
日に焼けるのも構わず、プールサイドから客の"裸"を観察している相田リコは、その特異な瞳でバスケ部の今後を構想しているし、その隣で目と耳で情報を分析している名字名前も、完全にバスケ部のマネージャーモードだった。
「………なぁ伊月。オレたち何で呼ばれたんだろうな」
「………さぁ」
水着姿にも関わらず、陸地にいること早数十分。
女子2人に放置された男子2人は、呼ばれた理由も分からぬまま立ち尽くしていた。
日差しはじりじりと身を焦がしているはずなのに、目の保養にもなっているはずなのに、寒気がするのは何故だろうか。
2日前、名前にプールに行かないかと誘われたときは気晴らしにもなるしと胸を踊らせたものだが、閑古鳥も吃驚な程のアウト・オブ・眼中ぶりである。
「カントク、名字…今日何しに来たんだ?」
「え?」
おずおずといった様子の日向の問いに反応したのは、熱心に人々を観察していた名前だ。
「……………勉強?」
しかし返ってきたのは、たっぷりの間と疑問符。
「つまり、カントクも名前もバスケのためにプールに来た…ってこと?」
「そうだよ。やっぱり体を見るのは大事だから」
続く伊月の疑問に、名前は肯定を示し首を縦に振ってみせた。
この様子だと、完全に"バスケ>遊び"───男子2人は虫除けだったということなのだろう。
「ま、そればっかりじゃないけどね。もちろんプールでも遊ぶわよ」
データ収集は終わったのか、大きな瞳を煌めかせリコは言う。
彼女の視線の先には、この屋外プール自慢のウォータースライダー。
2人用の8の字型の浮き輪に乗ってぐるぐる滑り落ちるスライダーからは、甲高い悲鳴のような声が聞こえてくる。
男子2人は思わず喉を鳴らした。
ここにきて漸く、キャッキャウフフな展開が───
「行くわよ、名前」
「うん!リコ前がいい?後ろがいい?」
「どっちでもいいけど…滑ってる最中に回転するだろうし、どっちでも一緒じゃないの?」
「あ、そっか」
女子2人は仲良さげに手を繋ぎ、プールサイドを急ぎ足で歩いていく。
その場に取り残された日向と伊月は、眩しい後ろ姿を眺めた後言葉を失ったまま顔を見合わせた。
───え、男2人でアレ乗るの?
───いや、さすがにちょっとそれは…。
「ちょっと、日向君も伊月君も何してるの?」
「順ちゃんと俊も行こう?」
差し伸べられた手を眺め、頷く以外に選択肢のない男子2人は溜め息混じりに歩き出す。
その手を独り占めすることは許されないかもしれないが───今を楽しんで何が悪い?
「ハッ!スライダーはツラいだー…」
「まじツラいから黙っててくれる!?」
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