───言えませんでした。
いや、まだ後半日チャンスはある!
諦めるな、私!
結構時間があったはずなのに、アイスを差し入れに行ったら黄瀬くんに絡まれて幸男さんまで辿り着かなかったし、食事は小堀さんと話してばっかだったし、レクリエーションは森山さんと早川さんと何故か同じチームだったし…幸男さんと全然話せてない。
チャンスは半日あるって言っても、明日の朝に皆は帰るから実質今日中、この夜しかチャンスはないってこと。
だから今日を逃したら、もう───
「名前」
「はいっ!!」
ビックリした…。
と思ったら、声をかけてくれた幸男さんも驚いた顔してた。
ごめんなさい幸男さん。
でも嬉しいです。
「この後皆で花火するけど、オマエも来るだろ?」
「え?」
さも当たり前といった様子で言う幸男さんの手には、うちの旅館のバケツが。
「いいんですか?」
「むしろ来てもらえる方がありがたいかな。な、笠松!」
「オマエは黙ってろ」
ひょいと後ろから顔を出した森山さんが、上機嫌で幸男さんの肩へ腕を回しながら言った。
その腕を鬱陶しげに払うと、幸男さんはすたすた外へ行ってしまう。
「アイツのことは任せたよ、名前ちゃん」
ウィンクまでしてみせた森山さんは、もしかして確信犯?
*
海常高校夏合宿の締め括り、プチ花火大会が始まってかれこれ1時間。
私は今、絶好のチャンスのど真ん中にいた。
「………………。」
「………………。」
喧騒から少し離れた物静かな一角にしゃがみこみ、線香花火の最後の灯火をぼんやり眺める。
視界こそぼんやりだけど、心臓はそれはもうけたたましく鳴り響いていた。
『女の子=皆線香花火が好き』という森山さんの理論により、用意された線香花火は全て私のもとへ運ばれたのだ。
幸男さん付きで。
告白するなら今しかない。
何かを促すように、ぽとん、と橙が地面で弾けた。
「幸男さん」
「…ん?」
「明日で帰っちゃうんですよね」
まだまだ沢山ある新しい線香花火に火を点けると、すぐに小さい火花が咲く。
「まあ、明日からは学校戻って練習だしな」
「そうですよね」
早々に火花が小さくなった。
これは落ちるの早いかも。
「……別に一生会えねーわけじゃねーし。んな泣きそうな顔すんな」
「泣いてないです」
「知ってるっての」
みるみる大きさを増した橙の球は重たげに膨れ上がったものの、地面へ吸い込まれることなくその姿を消した。
「幸男さん、あの、私───」
今しかない。
燃え尽きた線香花火から目を離した私の視界が、突如真っ暗になった。
夏の夜には暑すぎる体温に包まれ、頬に熱が集まっていく。
え、嘘なにこれ!?
「好き、だ」
「……え…?」
「何度も言わせんな」
恥ずかしそうに震える声に、私はただただ頷くしか出来なかった。
ヤバい、幸せすぎて涙出てきた。
「…私も、幸男さんが大好き…っ」
気持ちを絞り出してその背に手を伸ばせば、抱き締めてくれている腕の力が強くなる。
夏じゃなくて春が来たみたいです。
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