今年もこの日がやってきた。
『海常高校バスケ部の皆様』と書かれたプレートを表に立てかけながら、私は自然と弛みだした頬を慌てて引き締める。
危ない危ない、ただの変人になるところだった。
でも仕方ない。
あの人に会えると思うと嬉しくて嬉しくて、でもやっぱりちょっと照れ臭くて。
親曰く、高校バスケ界では有名らしいこの学校がうちの旅館を合宿時の宿泊先にするのは、もう何年も前からの恒例らしい。
あの人は今年3年生だから、此処へ来るのは今年が最後。
だから、出来れば、悔いが残らないように言ってしまえたらと思う。
あの人以外にも沢山の部員が来るだろうし、いざあの人を前にしたら緊張して言えないかもしれない。
そんなことを考えながら明日へ備えベッドに横になったら、案の定なかなか寝付けなかった。
───そして、朝。
「ようこそお越し下さいました」
「今年も数日お世話になります」
毎年恒例の挨拶を交わすお母さんと武内さんをすり抜け、私は一目散にあの人へと飛びつく。
「幸男さんっっ!」
「!!!??」
反射的に手を伸ばし受け止めてくれたにも関わらず、私が重すぎたのか彼を押し倒してしまった。
ごめんなさい、ダイエット頑張ります!
どよめく周囲の部員たちには見覚えのある人も勿論いたけれど、まずこの人と話をしなければ気が済まない。
一番会いたかった、この人と。
「名前、オマエ…!」
頬を赤くしながら眉を吊り上げる幸男さんだったけど、それは徐々に萎んで、代わりに温かい掌が私の頭へと乗せられた。
「久しぶり、だな」
「はい…!」
ああ、幸せ。
「え、ちょ、誰っスかあの子。女の子ちょー苦手な笠松サンを押し倒して、しかも何かいー雰囲気なんスけど!?」
あ、モデルの黄瀬涼太だ。
さすが本物はイケメン!───だけど、私には幸男さんが一番。
「海常高校バスケ部の皆さん、初めましてとお久しぶりです、ようこそお越し下さいました!」
幸男さんの上から退きながら、私は毎年繰り返しているセリフを言った。
「この旅館の娘の名字名前です。此処にいる間は毎年マネージャーっぽいことさせてもらってるんで、宜しくお願いします!」
拍手ももらって一段落、皆を部屋に案内したら、次は体育館でマネージャーもどき業務開始。
……いつ言えるかな。
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