「20分休憩ー!しっかり水分とれよー!」

「名字、ドリンクくれ!オレ今日濃いのがいい!」

「マネージャー、オレも!まじこの暑さ死ぬ!」


待ちに待った休憩の合図と共に、部員たちは息も絶え絶えマネージャーのもとへと群がった。


「濃い方はこっちで薄いのはこっちです。お好きな方持って行って…あ、むっくん用のはあれだから」

「ありがとー」


未だかつてない熱気に包まれている陽泉高校の体育館内で中心人物と化したバスケ部マネージャー・名字名前は、いつものように涼しい顔で仕事をこなしていく。

此処が秋田とは思えない程日差しが厳しい今日、激しい練習が行われている体育館が暑くないはずはないのだが、名前は至って冷静だった。


「名前ちん暑くねーの?」

「暑いよ。此処秋田とか嘘でしょってツッコみたいぐらいに」


長めの髪を鬱陶しげに払いながら紫原が問うと、名前は自分の手首につけていた髪ゴムを差し出しながら答える。

だが面倒臭がりな彼がそれを素直に受け取るわけもないので、大きな同級生を屈ませると名前は手早くその髪を結んでやった。


「全然暑そうには見えないけどな」

「えー、氷室先輩に言われるのはちょっと…」


首にタオルをかけ、ドリンク片手に声をかけてきた氷室も汗こそ流しているものの、端正な顔は暑さを感じていないように整ったままである。

明らかに不満げな名前に、氷室はやれやれと苦笑を漏らした。

これもいつものやり取り、いつもの流れなのだ。


「……氷室先輩、此処ちょっと任せますね」


練習のキツさと暑さでぐったりした部員たちを一瞥すると、名前は先輩の了承を待たず足早に体育館を飛び出した。

その後ろ姿を目で追った紫原はゆるりと首を傾げていたが、事を察している氷室は肩を竦めてみせ、一言。


「Take your time.」









「…福井先輩!」

「あ?」


蛇口を目一杯捻り、勢いよく排出される水を頭から浴びていた副主将は、滴る水を拭うことなく振り返った。

それを予想済みだった名前が素早くタオルを差し出せば、福井は短く礼を言ってから素直に受け取る。


「他の奴らは?」

「体育館でドリンク飲んでバテてます。主将は知りませんけど」

「何も問題ねぇみたいだな」


ふう、と息を漏らす福井の表情も、先程の氷室と同じく疲労を感じさせないものだった。

さすが、ここ陽泉にて副主将を務めているだけあって、彼もそう簡単に音をあげることはない。

しっかり主将いじりも受け入れているあたり、まだまだ余裕がありそうだ。

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