───そんな遊びなのかトレーニングなのか分からない水鉄砲合戦が開始されて、早2時間。
タンクが空になった水鉄砲を手持ち無沙汰に弄りながら、小金井は体育館への道を歩いていた。
体育館から校舎の一部までがエリアとして指定されていたのだが、その端まで1年トリオを追い掛け回していたため、戻る際はただ無防備に攻撃を受けるだけになってしまったのだ。
ちなみに先程擦れ違った伊月からたっぷり攻撃されたせいで、小金井は上から下までしっかり濡れてしまっている。
「あ、名字ちゃんだ」
「あ、コガくんだ」
漸く体育館に足を踏み入れると、先客である名前が厳つい水鉄砲を弄っているところだった。
どうやら性能がいい分、タンクも大きく組み立てに時間がかかるらしい。
「水、大分減ったんだよ。順ちゃんと鉄平、火神くんとテツヤが凄い勢いで撃ち合いしてるみたいで」
名前の言う通り、ビニールプールを覗き込むと、その嵩はかなり下まで減っていた。
「あー、なんかそーいえば叫んでたような…」
小金井が暑さでやや朦朧としている記憶を辿れば、合戦開始直後に日向と木吉がいつものノリで言い合っていたようなのだ。
あの勢いで補給と攻撃を繰り返したのなら、この減り方は納得である。
「ふー…にしてもつっかれたー!」
手早く自身の水鉄砲を補充すると、小金井はごろりと仰向きに寝転がった。
屋根はあるため日陰であるし、いくら水を浴びているとは言っても、校舎内を走り回っていたわけなのだから体内の熱も体力の消耗も尋常ではない。
このまま目を閉じて少し休憩───
「えいっ」
「!?」
に入ろうとしたところで、顔面に勢いよく水を浴びた小金井は飛び起きることとなった。
勢いのせいか地味に痛む顔を拭っていると、続いて謝罪が耳に届く。
「ごめんね、コガくん。一応ペナルティー…監視係だから」
「………忘れてた」
小金井は呻きながら項垂れた。
常に限界状態でいなければいけないこの合戦中、女性陣の前で気を抜いてはいけないのである。
「悔しいからオレも…えーいっ」
「!」
小振りな水鉄砲から放たれた水の弾丸数発は、先程のものより優しく名前に命中した。
元々濡れてはいたものの、頬や髪を伝う雫が幾筋も滴り落ちていく。
「コガくんにもやられちゃった」
「オレ以外に誰に会ったの?」
「まず最初はリコでしょ、後は降旗くんと凛ちゃんとテツヤ。私も撃ったんだけど、勿論その分撃たれてるよ。練習になってるのか遊んでるだけなのか、結局よく分からないけど…楽しいね、これ」
首にかけたタオルで水気を拭いながら、名前は微笑んでみせた。
たまにはこうして部員全員で騒ぐのも、煩くて楽しいではないか。
「よし。じゃあ名字ちゃん、オレと勝負だ!」
小金井が構えた水鉄砲は、真っ直ぐ名前へ向いている。
「それ強そうだし、どんな機能ついてるのか気になってたんだよね。此処なら水もタオルもあるから、いくらでも撃てるっしょ」
根本的に銃の性能が格段に違うのだから、"勝負"は圧倒的に名前が有利であるが、小金井自身勿論それを理解した上で持ちかけているはずだ。
名前は嬉しそうに頬を綻ばせると、同じように銃を構えて小金井へと照準を合わせた。
「使いこなせるか分からないけど…」
「言っとくけど、オレ名字ちゃん相手でも容赦しないからね!」
「うん。コガくん、覚悟!」
対峙した2人は同時にトリガーを引く。
一瞬で消えてしまう弾が、真っ直ぐに互いを射抜いていった。
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