───その誓いから数分後。


「嘘でしょ…」


はぐれました。

どうやら観光に来ていたらしい外国人の集団に巻き込まれて、私は俊先輩の手を離してしまったのである。

俊先輩も私もあの集団と比べれば小柄なせいで、あっという間に引き離されてしまった。

どうしよう。

右を見れば人、左を見ても人。

前も後ろも人だけど、私の隣に彼がいない。


「…携帯」


大丈夫、落ち着け自分。

時代が違えば自力でどうにかするしかないのだろうが、今はこの文明の機器がある。

まさか圏外じゃないだろうし、多分気付いてくれるはず。

道の端に避けて巾着から携帯を抜き出せば、不在着信の文字が光っていた。

誰からなんて見なくても分かる。

でも急いで折り返しても、私の耳にはコール音しか聞こえなかった。

タイミング悪いな…


「俊…」

「名前!」


鋭く名前を呼ばれたと思ったら、背中に衝撃。

首だけ振り返ったら、すぐ近くに俊先輩の綺麗な顔があった。


「焦った…まじ言った途端流されてはぐれるとか」

「フラグだったんでしょうか…」


前に回された腕を数度叩いて促すも、先輩が離れる気配はない。

端に避けているとは言っても神社への道中は道中、人の目もあるし恥ずかしい…けど、嬉しいな、なんて。


「フラグ…ふ、らぐ…」


ってダジャレ考えてるんかい!

そんなところも俊先輩らしいけどね。

しかも結局何か思いついたみたいで、そそくさと私から離れてネタ帳にメモしてるし。

いいけど、いいんだけど、何このもやっと感。


「よし、じゃあ行くか」

「はい」


用を果たしたらしいネタ帳を仕舞うと、俊先輩は先程のように片手をこちらへ差し出した。

それに手を重ねれば、指を絡め取られてぎゅってされる。


「今度こそ手、離すなよ」

「離しません、頑張ります」


出来るだけ先輩に寄り添って、私は力強く頷いてみせた。

せっかく先輩とお祭に来たんだもん。

いっぱい引っ付いてたいし、いっぱい話したいし、いっぱい楽しみたい。


「あ、そうだ先輩」

「ん?」

「かき氷食べたいです」

「さっき向こうで売ってたの見たし、そこからにするか」


提灯が目映く照らす道をゆったりと歩き出す。

浴衣のせいもあって、正直動きにくいし暑いけど、これぞ夏って感じで嫌いじゃない。


「名前」

「はい」

「…そろそろ敬語やめない?」

「え!?無理です!」

「即答!?」

「無理なものは無理です!」

「…まぁ、もう少しいいか」


もう少しって何!?

ってツッコんだら、いつも以上に綺麗な先輩の笑顔が返ってきました。

ついでに唇も奪われました。

先輩には多分一生勝てないと思います。

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