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誠凛2年・伊月俊はモテる。

整った顔立ちに目を奪われる女子生徒も多いのだろうが、彼は勉強も運動も出来るし真面目で優しいしと、大変魅力的な存在なのだ。

ただ1つ、意味の分からないダジャレ好きという点がマイナスなのだが、それさえなければ文句なしの人材である。

そのため彼に話しかけて幻滅する女子生徒がいる一方で、彼を遠くから眺めて恋い焦がれる女子生徒も多い。

そんな女子生徒が視界に入る度、名前はいたたまれない気持ちに苛まれていた。

そう、ちょうど今も。


「あ、あれバスケ部の伊月センパイだよね?キレー」

「カッコいいなぁ…」


体育の授業前、校庭に集まっている名前は友人たちの会話にピクリと肩を跳ねさせた。

彼女たちの視線の先には、移動教室なのか渡り廊下を歩く伊月の姿。


「ねぇ名前、あんたバスケ部のマネージャーでしょ?伊月センパイって本当に彼女いないの?」

「さぁ…そういう話したことないし、バスケ一筋って感じだから」


名前が知る限り、バスケ部メンバーで恋人持ちなのは土田だけである。

小金井から、伊月がしょっちゅう告白されているという話は聞いたことがあるが、実際のところどうなのかはさっぱり分からない。

だが友人たちが言う通り、彼には学年問わずファンがいるようで、名前自身彼に目を奪われている女子生徒の姿を何度も目撃している。

練習試合でも相手校のマネージャーが伊月を見てこそこそしているのを見つけてしまい、やきもきしたのも記憶に新しい。

───と、ここまできて名前ははっとした。

しかもどういう巡り合わせか、ちょうどこのタイミングで後輩の姿に気付いたらしい伊月が校庭───名前の方へ向かって微笑んでみせたのだ。

隣の友人たちからは、弾けんばかりの黄色い歓声が上がる。

だが、嫌な音を立てながら心臓が大量の血液を送り出すのを感じながらも、名前は会釈も何も返すことが出来なかった。

ぎこちなく自分で自分を抱きしめ、引き攣る顔を逸らして視界から彼を消す。

一度自覚してしまえば、これはもう簡単に消すことは不可能。

密かに生まれてしまった思いは、どうやらひっそりと燻ぶっているだけでは不満らしい。


「………伊月先輩って、カッコいいよね」

「はぁ?名前あんた今更何言ってんの?あれだけ近くで先輩のこと見といて」

「そう…だよね」


怪訝そうな友人の言葉はもっともだろう。

そう思いながらも、名前はそれを噛みしめるように現実から目を背けた。

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