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誠凛高校での高校生ライフの幕が開いてから名字名前に白羽の矢が立つまで、そんなに時間はかからなかった。
「名字さん」
「!!!??」
突如背後からかかった小さな声に、名前は帰り支度のために机上に広げていた教科書や筆記用具を盛大にぶちまけた。
教科書はひっくり返って床に着地、シャープペンシルや消しゴムは転がってあちこちに散乱していたが、名前は今それどころではない。
「黒子君、いつの間に…!?てか誠凛だったの!?」
「はい、お久しぶりです」
淡々と話す物静かな同窓生と名前は元クラスメイトというだけではなく、元バスケ部という共通点があった。
男女別ではあれど、帝光バスケ部所属だった2人は顔見知りであるし、けして仲が悪いというわけでもない。
しかし、進学先を相談しあう程の仲でもなければ、意味なく声をかける程親しくもなかったのである。
「名字さん、バスケはしないんですか?」
久しぶりに再会した彼からいきなり核心を突かれ、名前は咄嗟に返事を返せなかった。
バスケは好きだ。
───でも、違う。
「誠凛に女バスはないし、同好会も見てきたけど……」
帝光という輝かしいレッテルを剥がしたかったのか分からないが、進路を決定する際、強豪校を選ばずバスケ部がないことを承知の上で、この誠凛を選んだ。
にも関わらず、未練がましく同好会に足を伸ばし───そして『帝光』をまざまざと見せつけられた。
実力もやる気も先入観も、名前とは遥かに違っていたのだ。
「だから何処にも入らないつもり」
「じゃあバスケ部はどうでしょうか」
「……は?」
「男バスですけど、まだ見てませんよね?」
名前は躊躇いがちに首を縦に振る。
誠凛バスケ部は男子バスケ部───名前が入部するとすればマネージャー枠であるが、2年の女子生徒が監督とマネージャーを兼任しているはずだ。
だからこそ、最初から眼中になかった選択肢なのである。
「見てないけど…マネージャーも募集してないし、2年の先輩が監督とマネージャーを兼任してるんでしょ?」
「はい。でも、バスケに本気な人は募集してると思います」
一体何が「でも」なのか。
そのときの名前には、黒子の考えは分からなかった。
何故自分に声をかけたのか、何故誠凛バスケ部を勧めたのか、その意図は全く分からなかったが、しかし。
「……分かった」
名前は素直に頷いた。
「見学しに行ってもいいかな?」
そしてこの日から、誠凛バスケ部に元帝光女バス部員であるマネージャー(仮)が加わったのだった。
パノラマ×ガール(仮)
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