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翌日、心身共に名前は頗る元気だった。

勿論、最近気になって仕方がない彼が理由である。

容姿端麗、冷静沈着、バスケ部を支える司令塔、笑いのツボが分からない点はさて置いて、1つ年上の彼は異性に大変人気だ。

昨晩バスケ部マネージャーの特権をフル活用して帰宅した後、その渦中の彼、伊月からメールが届いたのだった。


お疲れ様。
今日はありがとう。
付き合わせておいてだけど、
病み上がりなんだし早く寝ろよ。
じゃあまた明日学校で。
おやすみ。


内容はありきたりなものではあるのだが、名前からすれば何度も読み返したくなる、何度も心を温めてくれる魔法の文章である。

そんなわけで、練習開始時刻より大幅にフライングして登校した名前は、軽い足取りで体育館の鍵を取りに職員室へ向かっていた。

もうすぐ彼を見ることが出来る。

もうすぐ彼と話すことが出来る。

嬉しいような恥ずかしいような擽ったさに苛まれながら歩いていた名前だったが、ふと耳に飛び込んできた単語に足を止めることとなった。


「……伊月君……!」


聞き間違いなどではない。

可愛らしくも真剣な声音に乗るのは、間違いなく恋い焦がれる彼の名だ。

この場所からは校舎が邪魔をしてその声のイメージ通り可愛らしい女子生徒の姿しか見えないが、おそらく近くに彼もいるのだろう。

名前の脳裏に最悪のパターンが過ぎった。


「ごめんね、こんな朝早くに」

「部活もあるし、平気だよ」


明らかに待ち合わせをしていたのだと分かる会話は、高確率でイコール最悪のパターンを示している。

彼が原因の早起きが仇となり、この現場に遭遇してしまうことになるとは───名前は急いで両手で耳を塞いだ。

きっとこの後、予想通りの展開になるのだろう。

正直、気になる。

でも、聞いてはいけない。


「ありがと。どうしても今日言っておきたいことがあって…」


聞くのが、怖い。

職員室に行くには絶対この道を通る必要があるが、そんなことはどうだっていい。

とにかく何も聞かず何も見ず、一刻も早く此処から立ち去らねばならない。

感覚がなくなってきた足に力を入れ、名前は出来るだけ音を立てないように静かに踵を返した。

自分にしか聞こえないアラートは、もう何度も鳴り響いている。

慎重に足を踏み出し静かに駆け出した数秒後、


「───名字…!」


聞き慣れた声が聞こえた気がしたが、それでも名前は振り返ることなく足を動かした。


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