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「そういや、名字って3Pシュート上手いよな」
名前が誠凛バスケ部のマネージャー(仮)となって、数日後。
放課後の練習の後のレギュラー陣の自主練中に、ふと日向が口にしたセリフに名前はぎくりと身を強張らせた。
皆の練習の合間を縫って、密かにボールを触っていたのがバレていたのか。
「ちょっと撃ってみ」
「え、そんな…」
促す声と共に飛んでくるボールを受け取る。
周りでそれぞれ練習していた部員たちも、期待に満ちた眼差しを名前へと向けていた。
これは逃げられそうにない。
「別に上手くないんですけど…」
掌に感じるザラつき、厚み、そしてこの重さ。
嫌という程体に馴染むそれに愛おしげに指を滑らせ、名前はシュートモーションに入る。
3Pラインより少しだけ後ろだが、大した問題ではない。
いつも通り、バスケットへの軌道を俯瞰図でイメージして手を離せばいいのだ。
「おぉー…」
感心を示すような誰かの嘆息が聞こえたとき、ボールはリングへ触れることなく、イメージ通りにゴールのど真ん中を潜り落ちていた。
「…良かった…」
想定通りの結果に、名前はそっと胸を撫で下ろす。
これが帝光時代の練習であったなら、外した瞬間ペナルティーレベルの事柄だったのだ。
「上手いってか無駄がねーな。帝光出身なだけあるっつーか…」
「言いながらこっち見るのやめてくれませんか、火神君」
ちらりと黒子を見ながら意味深に言った火神に、その意味を察して咎める黒子。
黒子が例外な選手であることは周知の事実だが、これには名前も苦笑いである。
「なんかゴールが見えてそーなシュートだよね」
土田がそう言えば、隣の水戸部が声を出さずに賛同してみせた。
「見えてるわけじゃないですけど、こう…ちょっと上からの視点をイメージするって言うか…」
「鷲の目みたいな?」
続いて口を挟んだのは、誠凛バスケ部で一番の視野を持つ伊月だ。
彼の特殊な瞳の呼び名である『鷲の目』が、イメージとしては一番近いかもしれない。
「伊月先輩の視界がどうなってるのか私には分からないですけど…多分そんな感じです」
「なるほど…」
分かったのか分かっていないのか、小金井は納得したように頷く。
「みんなー、そろそろ時間だから帰り支度してー!」
と、そのときカントクの声が体育館中に響いた。
時計を見やれば、確かにもういい時間だ。
散り散りに片付けを始める部員たちに混じり、名前も急いで動き始めた。
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