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「改めて思ったけどホント綺麗に撃つよな、名字って。俺も見習わないと」

「ありがとうございます。でもただのフリースローなんで、むしろ型が崩れてたらマズいって言うか…」

「フリースを着てフリースロー…キタコレ」


一体どこがキタのかさっぱりだったが、名前はその言葉を飲み込んで苦笑するに留めた。

約束通り伊月と帰路を共にしているわけだが、話題はやはりバスケのことばかりである。

互いに興味も知識も経験もそれなりにあるため、会話が途切れることもない。

もうすっかり日も落ちて人通りも少ない道中ではあったが、そんな物寂しさなど眼中に入らない程心は温かかった。


「送って下さってありがとうございました」

「こっちこそ付き合わせてごめん。ありがとう」


あっと言う間に到着した家の前で名前は頭を下げると、伊月からは謝罪と礼だけでなく優しい笑みが返ってきた。

2人きりの居残り練習、2人きりの下校。

バスケ部マネージャーの特権をフル活用出来ている結果に、名前も思わず笑みを返す。

勿論名残惜しいし、もっともっとと強請りたいのは山々だが、もう十分幸せを噛みしめ蓄えることが出来た。

充電は満タンだ。

お先に失礼します、と再度頭を下げようとしたのだが、目の前の彼の固い言葉に止められる。


「あの、さ」


珍しく歯切れの悪い響きに、名前は急に不安に支配された。

分厚い暗い雲が空を見る見る覆っていくように、胸が苦しくなっていく。


「俺の鷲の目だけど、意識すれば結構周りも見れるんだ。だから練習中、他の奴らの行動だって目に入る」

「…はい」

「今日とか名字が何かしようとしても、すぐ黒子が助けに行くのとかも見えてて」

「…はい」

「凄く気になったんだ。別に鬱陶しいとかそういうわけじゃなくて、久しぶりに視界に名字がいたからっていうか…」


言い辛そうに、そしてどこか恥ずかしそうに伊月は目線を逸らしながら言葉を紡いだ。

対する名前は伊月から目が離せず、その一字一句逃さぬよう耳まで彼に向いていた。


「ごめん、いきなりこんな話して気持ち悪いよな」

「そんな…!その、何て言うか、少しでもお役に立ててるならいいんですけど、少しでも練習の邪魔になってるなら正直に言って下さい!」

「邪魔になってない。むしろ鷲の目で見つけられないと気掛かりだよ」


慌てて捲し立てる名前とは対照的に冷静沈着な先輩は、苦笑混じりに片手を伸ばした。

いつぞやは名前の手を優しく引いたその手が、今度は頭へと乗せられる。


「目の前で倒れたりしたし、あの日最後に会ったの俺だし…気になって仕方なかった」

「あ…」


たまたまとは言え、渡り廊下のど真ん中で倒れたときも、意識が朦朧としたまま家に帰ったときも、隣にいたのは伊月だった。

たった数日前のことなのに、もう随分昔の話のようである。


「無理せず…でもこれからも頼むぜ、マネージャー」

「…はい!」


頭を撫でられる心地よさに浸りながら、名前は目一杯首を縦に振ったのだった。


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