05(2/2)
一体オマエらは何処の恋人だ。
そんなツッコミを面々が飲み込む間も、名前と黒子は自然と寄り添い自然と業務を分担し、そして自然と微笑み合っている。
「カントク、俺も今までぶっ飛んでたけど、そろそろ部活」
「えぇ、そうね。ちょっと…うん、やりましょう。黒子君は2倍で」
「…カントク…」
色々な意味でダメージを受けた先輩たちを尻目に、同中コンビは仲睦まじげに仕事に勤しんでいた。
*
黒子に対して少々厳しめに、だがいつも通り始まった練習は充実した時間と共にあっと言う間に過ぎ去った。
部員たちも皆帰宅準備に入り、マネージャーである名前も帰り支度を終えて鞄片手に最後の体育館の施錠確認へ向かったのだが、そこでふと聞こえた声に足を止めることとなる。
「まだ誰か……?」
薄暗い体育館の中に目を向ければ、そこにいたのはもうとっくに更衣室に行ったと思っていた2人だった。
何を話しているのかまで聞こえてはこないが、練習着のまま向かい合っている2人の声音はどことなく固いようである。
片や名前の同窓で現在はチームメイトな間柄の神出鬼没な彼、片や司令塔としてチームを引っ張り神出鬼没な彼も視界に捉える先輩。
別に仲が悪いわけでもないが、帰宅間際の体育館で、このようにひっそりと話し合いをするような仲でもないように思えた。
「……黒子君、伊月先輩」
名前の声は僅かに震えている。
そしてその静かに響いた声に振り返った彼らは、我に返ったかの如く驚いたように目を見開いていた。
「あの、そろそろ鍵返さないと…」
「もうそんな時間か」
「すみません、着替えてきます」
思っていたより普通、そして自然な様子の2人に、名前はそっと胸を撫で下ろす。
何を話していたのか知らないが、けして空気は悪くないようだ。
「え、黒子君も伊月君もまだ着替えてなかったの?鍵返しちゃうわよ」
と、そのとき、同じく施錠確認をしに来たらしいカントクの声が挟まれた。
そもそも着替える必要もないが、当然の如く彼女も帰宅準備は出来ている。
「悪いカントク。俺がやっとくから」
「そう?まぁ伊月君なら大丈夫ね」
すんなり納得したカントクは、用事でもあるのかそそくさと帰っていった。
同時に仕事がなくなった名前も帰路につこうとしたのだが、「ちょっと待って」と伊月に阻まれる。
「この後少し余裕ある?時間的にも体調的にも」
「え?まぁ、はい。大丈夫ですけど…」
「じゃあ少しだけ付き合ってくれないか?帰り送るし」
一瞬、名前の中で様々な思いが過ぎった。
おそらく客観的な意見が欲しいために、選手経験もある自分を誘ったのだろうとは思う。
でも、今、このタイミングで───しかも気が付けば黒子の姿もないではないか。
凄まじい勢いでプラスにもマイナスにも考えが巡りはしたものの、結局名前が首を横に振ることはなかった。
「私でいいなら、お供しますよ」
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