軽やかな、でもそれでいてどこか荒々しい様子の規則的な音が遠くで響いている。

それがこちらへ向かってくる彼の靴音だと気付いたのは、ちょうど私がいるこの保健室の扉が開かれたときだった。

ベッドを囲っていたカーテンが、迷わず開かれる。


「起きてたの」

「うん、ついさっき」


平淡な問いに、私は上半身を起こしながら答えた。

ただ返事をしただけなのに、何故か彼の眉間に皺が寄る。


「寝てなよ。長距離走の最中に倒れたって聞いてる」

「よく知ってるね」

「僕を誰だと思ってるの」

「……雲雀様?」

「咬み殺すよ」


端正な顔を不満げに歪ませてはいるものの、雲雀くんはそこまで機嫌を損ねているわけでもなさそうだ。

私の体調の方も、体育の授業中に貧血を起こして蹲ってしまったというだけで、少し休めば特に心配はいらないというレベル。

こうやって保健室で横になっていたおかげで、もう冗談が言えるぐらいには元気である。


「でも本当にもう大丈夫だから。次の授業は出るよ」

「認めない」

「え?」

「後1時間大人しく寝てなよ」

「………えぇ?」


優しく、でも有無を言わさぬ力で、私は再度ベッドに沈むこととなった。

元々少し変わった人だと思ってはいたが、彼が賢すぎるのか私が馬鹿すぎるのか、とりあえず噛み合わないことが多い。

加えて、皆から一目置かれている孤高な彼は何故か私には過保護のようで、色々先回りされて甘やかされてばかりなのである。


「君の大丈夫は信用ならないからね。もう1時間様子を見て、早退するかどうか決めるよ」


どうやら、私の意見どころか保健医の意見も無視らしい。

そう言えばいないみたいだけど、先生何処に行ったんだろう?


「何か文句でもあるの」

「文句って言うか…雲雀くんだなって思って」


私は思わず笑ってしまった。

こんな疑問符を許さない断言、彼にしか出来ないでしょ。


「いくら君でも、いい加減にしないと咬み殺すよ」

「咬み殺されるのは嫌かなぁ。痛そうだし。手加減してくれる?」


わりと本気で言ったのだが、雲雀くんから返ってきたのは呆れたっぷりの溜め息。

それでも今、私は妙に幸せだった。

実際助けられたことはあっても咬み殺されたことはないし、雲雀くんが常に人の上にいて先にいて、でもちゃんと振り返って手を差し伸べてくれる人だって知ってるからね。

ひょんなことから彼と、それからボンゴレと関わることになってから、少なからず私の毎日は楽しくなった。


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