「名前さん、ちょっといいですかィ」


縁側で洗い立ての隊服を黙々と畳んでいた名前が、その手を止めて振り返る。
そこには見回りに出ていたはずの沖田が立っていた。
隊服を纏ってはいるものの、愛用のアイマスクを額につけ、完全オフモードである。


「おかえりなさい。早かったね」
「ただいまでさァ。予定が変わって先に帰ってきたんで、ちょっと付き合って下せェ」


沖田は名前の手首を思い切り引くと、その勢いで足元が覚束ない彼女を半ば引き摺るように自室へと引き入れた。
訳が分からぬまま座り込んだ名前の目の前で、襖がピシャリと閉められる。


「一緒に寝やしょう」
「寝…!?」


衝撃の発言の後、これもまた半ば強制的に名前の後頭部は固い何かにぶつけられた。
ぱちくりと瞳を瞬かせると、沖田の端正な顔立ちと搗ち合う。
押し倒された…のではなく、片膝を立てて座った彼に膝枕されているのだ。


「何で総悟くんに膝枕されてるのかな?」
「そりゃ寝るためでさァ。さっき言ったでしょう。俺はいつ何があるか分からねーんで、これで我慢して下せェ」


そう言うと、沖田はアイマスクを目元へと下ろし、スヤスヤ寝息を立て始めた。
居たたまれないと困り果てた名前が体を起こそうとしようものなら、見えていないはずなのに何故か光の速さで飛んでくる彼の手に押さえつけられる。
仕方なく少々固い膝枕に頭を預けているうちに、いつの間にか名前も眠りに落ちてしまっていた。








「…………やっと寝たか」


スッとアイマスクを持ち上げ、自分の膝で無防備に眠る彼女を見つめる。
この時代に有り得ない程平和ボケしたその寝顔を見ていると、沖田の胸の奥に何かが揺らめいた。

異世界とやらから来た非力な彼女を最初に見つけたのは彼で、屯所で保護すると決まってから何かと気にもかけて仲良くやってきたつもりだった。
しかし、やはり名前以外自分に関する記憶もなく、全く違う世界に放り出されて不安が募るのか、最近名前が眠れていないことに沖田は気付いていたのだ。
だからこうして局長・副長公認のもと見回りの時間を調整し、おそらく一番事を上手く進められるだろう彼が名前に接触を図ったのだった。


「しかしまぁ…」


歳が近く仲も良いと言っても、沖田は男だ。
美味そうな獲物が目の前にいて2人きり、邪魔者もいない今を逃すはずがない。
赤い舌を見せ、ペロリと舌なめずり。


「近藤さんも土方さんも、俺に任せたのは間違いですぜ」


彼は自嘲気味に笑ってみせてから、薄く開いた唇にゆっくりと己のそれを重ねたのだった。

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