「土方さん、今いいですか?」
「あァ、名前か。入れ」


私が部屋に足を踏み入れると、彼は机の前でタバコをもみ消しているところだった。
タバコの煙が得意ではない私のためだとすぐ分かったから、思わず口元が緩む。


「お茶いれたので、良かったら休憩して下さい」
「悪ィな」


土方さんも根を詰めていたのだろう、大人しく湯呑みを手に取ってくれた。
ほんの少しだけ熱めにしてみたけど、文句言わず飲んでくれているから、多分悪くはなかったんだと思う。

さて、ここからどうしよう。
私は土方さんの上司である近藤さんから、彼を休憩させるよう言われて此処に来たのだ。
お茶を出してサヨナラでは、任務を達成することは出来ない。
でも私が世間話なんかしても、土方さんからすれば何も休憩にならないだろうし。

そんな迷いが顔に出ていたのか、土方さんがふっと笑った。


「で?」
「え?」
「誰の差し金だ?…って訊くまでもねェな」


あ、もうこれ全部バレてるやつだ。


「近藤さんが私に仕事を下さったんです。土方さんを休憩させるっていう」
「そりゃエラい大層な仕事だな」
「だって土方さん、もう半日篭もりっきりじゃないですか」
「どっかの誰かさんがやらかした始末書のせいでな」


何だかんだ言いながら、土方さんは手を止めて私と話をしてくれている。
『近藤さんがくれた仕事』というワードの効果は絶大らしい。
さすが局長。


「で?」
「え?」
「いや、『え?』じゃねェよ。どうやって俺を休ませる気だ?お前と話しながらでも仕事は出来るぞ」
「ダメです!」


にやりと音がしそうな笑み。
からかわれているんだと分かっているけど、ちょっとカッコいいとか思っちゃう。
普段鬼と恐れられ、確かに目つきは鋭いけど、本当は面倒見のいい優しい男前だって知ってるんだから。
じゃないと、道端で倒れていて名前しか覚えていなかった怪しすぎる私を、保護対象として屯所で囲ったりなんかしない。
ましてや、別の世界から来た私を。


「しゃーねーな。膝貸せ膝」


ごろりと寝転がった土方さんの頭が膝に乗る。
そしてそのまま横向きに、そっと目を閉じた。


「30分だ。30分こうしててやるから、喋るなりなんなり好きにしろ」
「30分…」
「近藤さんの命令に逆らうわけにはいかねェからな」


私が喋って話し相手になってもらうか、それとも上手く眠ってもらうか、さぁどうしよう。
とりあえずお疲れ様の気持ちを込めて頭を撫でてみたら、一瞬目を開けてこっちを見てから、またすぐ目を閉じてしまった。
何か可愛い。


「ねーんねーんーころーりーよ、おこーろーりーよー」
「…逆に寝れねェよ」


そんなある日の昼下がり、総悟くんがこの部屋にバズーカをぶっ放すまで、後5分。

  return  

[1/1]
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -