名前は至って普通の女の子だ。

芸能人みたいに目立つ容姿ってわけでもなければ、ずば抜けて頭が良かったり、運動が出来たりというわけでもない。

明るくて優しくて、可愛らしいただの女の子。

従兄弟であるハルのことを懲りずに"ハルちゃん"と呼び続け、なんだかんだでいつも一緒にいる名前は俺の大事な友人でもある。

そう、友人───なはず、だった。

もういつからか覚えてないけど、名前がハルと戯れてるところを見ると、もやもやするようになったんだ。

渚の頭を撫でて2人で顔を見合わせて笑ってるところを見ても、怜が照れながらも名前を頼ってるところを見ても、凛が昔みたいな無邪気な顔でちょっかいかけてるところを見ても。

いくら俺でも、コレが何を意味しているかぐらいは分かってる。

名前は俺の中で、"ただの女の子"でも"友人"でもない、違う存在になってたんだ。


「真琴ー?どうしたの?大丈夫?」

「…ああ、うん大丈夫」

「ハルー!真琴が大丈夫じゃなーい!」


俺の返事を鵜呑みにしなかったらしい名前は、大好きな鯖を調理中なハルのところへ走っていってしまった。

今日も今日でいつも通り、名前と俺はハルの家にお邪魔していて、そのハルは水風呂からの鯖で、名前は基本そんなハルに付きっきりで、取り残された俺は1人もやもやしてる。

従兄弟のハルにまで嫉妬って…小さい人間だよな、俺。


「真琴なら大丈夫だ」

「それが大丈夫じゃないんだってばハルちゃん!何かね、いつもと違うって言うか…儚いって言うか…どうしよう!?」

「真琴なら大丈夫だ」

「だからー!」


…何かごめんね、ハル。


「そんなに真琴が気になるなら、直接訊けばいい」

「話してくれるかな?」

「話してくれるまで訊けばいい」


会話は全部聞こえてたから予想はしてたけど、数秒後にはハルに首根っこを掴まれた名前が俺の前に座らされていた。

そして全てを察しているのか、ほんの少し、ほんの少しだけ笑って、ハルは鯖の元へ帰っていったし。

多分とっくに、ハルは俺の気持ちに気付いてたんだろう。


「……………。」

「……………。」


言えってこと、だよな。

名前に"大丈夫じゃない"って言われるぐらい、ぐだぐだうじうじもやもやして嫉妬してるぐらいなら、きっぱりはっきり言ってしまえって。


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