春。
それは出会いと別れの季節である。
無事2年生に進学した私は、まだ見ぬ後輩や新しいクラスに胸を膨らませながら教室へ足を踏み入れた。
すると───
「あ、名前ちゃん来た来た!今年も同じクラスだし、そろそろクラス以外でも宜しくお願いしたいなーみたいな?」
自分の顔面が凍り付いたのが分かった。
え、ウソ、マジで?
また?
またコイツと同じクラス?
え、気付かなかった…。
「ちょ、名前ちゃんどしたの?マジでマネージャーとして応援してくれる気になった?」
バカなこと言ってるコイツの後ろで倉持くんがヒャハヒャハ笑ってるけど、正直こっちはそれどころではない。
完全に去年のデジャヴ…!
思い起こせば1年前、私の兄が野球界では少々有名な投手だからという理由でコイツ───同じクラスになった御幸一也に声をかけられた。
最初は確かお兄ちゃんの話をちょっとした後に、野球部のマネージャーとして一緒に頑張ってほしい、って言われたと思う。
それから学校がある日は毎回声をかけられて、その度にマネージャーやら何やらに勧誘され続けたのだ。
勿論私が首を縦に振ったことは一度もない。
せっかく学年上がって解放されると思ったのに…!
「いや御幸、いつも言ってるけど知ってるよね?私が吹奏楽部なの。だからまずマネージャーは有り得ないし、ウチの部結構しっかり野球部応援してると思うんだけど」
「それは吹奏楽部として、野球部を応援してくれてんだろ?マネージャーは無理だとしても、俺は名前ちゃんに、欲を言えば俺だけを応援して支えてもらいたくて、そのお返しに甘やかして俺無しじゃ生きられないぐらいにしてーの」
近くにいた女子からハートマーク付きの黄色い声が上がった。
こんなでも御幸モテるもんなー…じゃなくて!
何言ってんのコイツ。
倉持くんお腹抱えて爆笑してるから。
「ねぇ倉持くん、御幸って部活でもこんななの?てか罰ゲームか何かなの?」
「はい名前ちゃん、よそ見禁止〜」
えええええ。
倉持くんからの情報収集禁止ってか、ほんとコイツ何なの!?
「1年ずっと言い続けてるんだからさ、そろそろ打ち取られてくれてもいーんじゃね?って思うんですケド」
「だからマネージャー有り得ないし、御幸だけ応援とか支えるとかもないってば」
「そーかそーか。じゃ、まあ2回戦開始ってことで頑張りますかね」
悪びれた様子もなく笑った御幸は、整った顔立ちも相俟ってやっぱりカッコ良かった。
頭の回転も速いし、野球部では要だの何だの言われてるし、どの面から見てもやっぱりカッコ良いんだけど…何だろう、このちょっとズレた感。
「覚悟しててよ、名前ちゃん。2回戦はもっと攻めて狙ってくから」
「あんまり目立ちたくないし、返事は変わらないから出来れば話しかけてほしくないんだけど」
「それは聞けねーわ。俺の専属マネージャー、いつでも歓迎だから早く落ちろよ」
「……っ!」
冗談っぽく言うくせに、私を見るスッと細められた目は眼鏡の奥で鋭く輝いている。
たまに見せる、御幸のこの目が怖い。
真剣なこの目をずっと見てたら何か負けちゃいそうで………悔しい。
「御幸ー、名字ー、仲良いのは分かってるから席つけー。HR始めるぞー」
ああヤダどうしよう。
頭の中で、多分今年何度も演奏することになるだろう狙いうちがずっと流れてる。
「せんせー、俺名前ちゃんの隣の席がいいでーす」
「先生、御幸一也が少し間違えたらストーカーになりそうなんで、阻止して下さい」
出会いと別れの季節、春。
出来れば3回戦に突入したくないので…今年中には何とかしたいと思います。
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