「……え?」
なんだかんだで雲雀くんが相手をしてくれているという喜びに浸っていた私は、我に返ると思わず間抜けな声を出してしまった。
私のことなどお構いなしに手近にあった丸椅子を引っ張ってくると、彼は学ランの裾を翻して迷わずそれに座ったのだ。
「何?」
そう言った雲雀くんの切れ長の双眸は、それこそ凶器のような鋭さである。
何か文句があるのか。
あるなら咬み殺すよ。
───そんな声が聞こえてきそうな程に。
「いや、その……此処にいるのかなって思って」
「それが何?」
何故か先生もいない保健室で、あの雲雀恭弥に監視されながらベッドで横になっていて、誰が落ち着いて休めるのだろうか。
多分全員絶対無理。
いくら私でもハードルが高い。
ちょっと嬉しいとは思うけど、同時に嫌な緊張感にも襲われる。
「君は信用ならないからね」
「そんなに?」
「手のかかる子だよ」
呆れたような口調なくせに、どことなく口角が上がって見えるのは、彼が実は凄く優しい人だからだろうか。
「雲雀くん雲雀くん」
「何?」
「大人しく寝る努力するから、手繋いでてほしいなんて言ったら咬み殺す?」
きょとんとした瞳が真っ直ぐ私へ向けられる。
うん、やっぱり怒ってはいないみたいだし、寧ろどちらかと言えば機嫌は良い方みたい。
「僕が今まで君を咬み殺したことがあった?」
「ない…よね、ギリギリ」
「そうだね」
キシ、とスプリングが軋んだ。
ベッドに腰を下ろし、私の顔の横に両腕を突いて上半身だけ覆い被さった彼は、薄く、本当にうっすらとだけ笑ってみせる。
「名前、いい子だから大人しく寝てなよ。僕に咬み殺されたくなかったらね」
額に落とされた唇はとても温かくて、それでいてとても優しかった。
一気に体温が沸点を越えてしまった私は、慌てて掛け布団を頭まで引き上げる。
暑いし熱い。
咬み殺すだなんて───きっとそれは普段の彼からは想像がつかないぐらいの蕩けるような甘噛みで、それでいて即死してしまうような殺傷力に違いない。
駄目だ、私死ぬ。
確実に殺される。
何か話題を変えないと───
「あ、そうだ雲雀くん。そう言えば、この間ディーノさんがね」
「本当に君は僕を煽るのが上手いね」
駄目だ、地雷踏んだ。
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