凄く言い辛そうに先に口を開いた名前は、困ってるのか照れてるのか、ぎこちないその姿も可愛かった。


「じゃあ、えっと…真琴!…さん」

「…何?」

「何か、ちょっと、いつもと、様子が、違う気が、するんですけど!」

「…うん」

「ホントに大丈夫、なの?」


困惑と羞恥と不安が入り混じったように俺の様子を窺う名前。

何て返事しようか迷っているうちに、彼女の表情は曇っていく。

と思ったら、急にスッと立ち上がった。


「やっぱ無理だよハルちゃん…!」


そうやって、またハルのところに行くの?

ハルを頼るの?


「ダメ」


ダメだよ。


「行かせない」


これはそのハルがくれたチャンスなんだから。


「まこ…?」


腕を引いてもう一度座らせれば、崩れ落ちた名前の瞳が今度は不思議そうに揺らめいた。


「理由、聞きたいんだろ?」

「教えてくれるの?」

「名前がハルのところに行かないなら」


"分かった"と小さく頷き、名前は真っ直ぐ俺を見つめ返す。

その眼差しが少しハルと似ていて、2人の関係を表しているようだった。


「周りの仲間に嫉妬するぐらい、好きなんだ」


きょとん。

そんな音が合うように目を瞬かせた名前が固まる。

と思いきや、10秒後には顔を真っ赤にしてあたふたし始めた。


「…え?…え!?」


そしてさっきと同じようにスッと立ち上がってハルのところに行こうとするから、その手を引いてもう一度座らせる。

逃げられないように後ろから抱き締めれば、名前の小さい体は面白いぐらいに跳ねた。


「ハルのところに行かないで、って言ったのに」

「つい……じゃなくて待って、ちょっとまだついていけてないって言うか、私の知ってる真琴と何か違うって言うか…」

「そう?今日もいつも通り名前可愛いなあって思って、ハルに嫉妬してたんだけど」

「え!?」


小さく身を捩る体を包み込んだまま赤く染まった耳元に唇を寄せると、恥ずかしいのか名前の体温が上昇した。

きっと前から見れば、柔らかそうな頬も真っ赤に染まっているんだろう。


「名前が、好きなんだ」

「…………うん」

「皆に嫉妬しなくていいように、俺だけのものにしたいって、ずっと思ってた」

「…………ズルいよ、真琴は」


名前の声が急に震え始めた。


「真琴にそんなこと言われて、意識しない子なんているわけないじゃん…!」


顔を見なくても分かる。

きっと今泣きそうになってるんだ。

その照れた顔も溢れる涙も、全部全部俺だけのものになればいいのに。


「それ、期待してもいいのかな?」

「期待も何も…私だってずっと、真琴のことカッコいいって、好きって思ってた、よ」


きょとん。

今度は俺が固まる番だった。

でもその言葉の意味を理解した途端、胸があったかくなって、満たされていく気がする。

このまま食べてしまいたいぐらい可愛い、愛しいってこういうことなんだな───


「名前」


なんて頭の片隅で思いながら、俺は密かに邪な感情を押し殺していた。

多分凄く厄介なのに捕まっちゃったと思うよ、名前。

けど簡単には逃がさないから、ね。

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