糖度100%ラバー | ナノ

「名前、好きです。」
「………」

頭をなでながら、にっこり眩しいくらいの笑顔で言ってくるもんだから、いつも反応に困って黙り込んでしまう。
本当にアレン君の爽やかスマイルは反則だ。
つい、バイトの合間の休憩時間ということを忘れてしまう。

「おーい。お楽しみのとこ悪いけど、アレン交代さ。」
「ラビ」

ニヤニヤしながら休憩室の扉から覗き込むラビ。
アレン君はラビを一瞥してから、はぁっと息をつくと、今行きますとだけ言って私の頭をくしゃくしゃとしてから立ち上がって休憩室から出ていった。
頭からアレン君の手のぬくもりが離れていって、それを名残惜しく感じてついその場所に手をあててしまう。


「お熱いさねぇーお二人さん」
「ラビ、なんかオジサンみたい。」
「うるさいさ」


アレン君とラビはカフェで働く私のバイト仲間なわけだけど、アレン君は私のどこに惹かれたのかシフトが一緒になった日の休憩時間にはいつも、こう…なんていうか好意を伝えてくる。
なんだか恥ずかしい話なんだけど。


「アレン君、本気かなぁ?」
「は?」
「いや、あの、さっきの。」
「そんなん名前が一番分かってるはずさ。本気の言葉と冗談が分からないほどバカじゃないだろ。」
「、………」


言葉に詰まる。
アレン君が冗談であんなことを言うほど軽い人じゃないことは分かってる。


そう、私はただ正面からぶつかってくる本気の思いから逃げようとしているだけなのだ。


「なんで私なのかな…。だってアレン君、大学でモテてるでしょ?」

アレン君とラビは同じ有名大学(それも超優秀)に通っていて、私はその近くの大学に通っているのだけれど、アレン君とラビはうちの大学でもちょっとした有名人であったりする。
もちろんかっこよさ故に、
まぁ、頭の色が紅白じゃ嫌でも目立っちゃうと思うけど…
とにかく彼らは目立ってもてるのだ。
そんな人らと同じバイトなだけでも恐縮なのに、さらにアレン君が私なんかを好きだなんて…


「お前はめんどくさい女さね。好きになることに理由が必要ですかー?」
「うっ…」
「名前もアレンのことが好きなんだろ?なら早くアレンに気持ち伝えるさ。」
「…分からないんだもん。」
「何が?」
「…アレン君を好きなのか…」
「そこ?」
「だって、」
「恋する乙女は情緒不安定さねー。」
「真剣に悩んでるんですけど。」
「分かってるさ。けど、自分の気持ちなんて自分で整理つけるしかないだろ?」
「…まぁ、ね。」

適当そうなのにラビのアドバイスはいつも的確だ。
本当この人外見に反するよね。

「さっきなんか失礼なこと考えた?」
「いいえ。」

そして鋭い…(汗)





―――





「「いらっしゃいませー」」


カランカラン、という音が鳴って数人の若い女の人が入ってくる。
入ってすぐに女の人たちの視線はアレン君とラビにとまる。
当店の名物でございます、と心の中で紹介しといた。
本当にこの二人は華がある。
実際、アレン君とラビ目当てで来る人もいるから、アレン君とラビはこの店の売り上げに貢献しているに違いない。






「アレン君って言うんだー」

ふと聞こえてしまった、お客さんとアレン君の会話。
アレン君の場合、お客さんに声をかけられるなんて珍しいことじゃない。

…ない、けど、、


たのしそーだなぁ…


なんて。
自嘲気味に笑ってうつむく。


こんなに、気になってるくせにね、


気にしてたってしょうがないっ
気を取り直して仕事しなきゃ。

そう思ってお皿とかカップの片付けをするんだけど、アレン君とお客さんの話し声はばっちり耳に入ってきちゃって、


「アレン君、いつバイト終わるのー?」
「今日はまだまだ先ですよ。」
「そうなのー?私、アレン君が終わるまで待ってようかなぁー。」
「そんな、悪いですよ。」
「じゃー連絡先教えて?」
「…いいですよ。」


えっっ
教えちゃうの!?


驚いてついアレン君とお客さんのほうを振り向いてしまった。


アレン君は紙に連絡先を書いているようで気付かれなかったけど、お客さんとはばっちり目が合ってフッと勝ち誇ったように笑われてしまった。


なに、
いつもは教えないくせに。
そのお客さんが綺麗だったからかな、


お客さんから目を離して片付けを再開する。


もやもや、
もやもや、


結局、このもやもやはバイトが終わるまで消えることはなかった。



「お疲れさまでしたー。」

そう言って着替えのために休憩室に入ると、先に上がっていたアレン君がいた。
目が合ったけど、ついそらしてしまう。
また、胸にうずまくもやもや。


早く着替えて帰ろう、


そう思ってロッカーに手をのばすと、その手をアレン君に掴まれた。


「なんで、目逸らすんですか?」
「別に、意味はないよ?」


真っ直ぐ見つめるアレン君に、あたしも真っ直ぐ見つめ返す。
けど、絡まる視線がやはり気まずくて目を逸らしてしまう。


「意味はないなんて、ウソ。」
「、ウソじゃないっ」
「意味がないならそんな顔しない。」
「な、に…そんな顔って」


「"構ってほしい"って顔。」


頬をつつんで、顔を近付けられてそう甘く囁かれるもんだから、
ぶわってほっぺた熱くなって、頭の中も沸騰しそうになる。


「ア、レンくん」
「今日連絡先渡したお客さんは、丁度混む時間帯でしたので長居されたらお店側に迷惑がかかると思ったからです。」
「、へ」
「妬いてくれたんでしょう?」
「え」


嬉しそうに至近距離で笑うアレン君。
ばれてたんだ…


さらに温度が上がる顔、
蒸気出ちゃうんじゃないかって思うほど。


アレン君はそんな私のおでことおでこをあわせて、愛しそうにスリスリした。


「僕が好きなのは名前だけですよ。」





ちょっとだけ、涙がでた。






ねぇ、

君にどう伝えればいいのかな



胸いっぱいに溢れるこの感情を



涙がでてしまうくらい高まっているこの気持ちを



痛いくらいに胸に感じるこの思いを






本当はずっと分かってた、

ただそれを伝える言葉が見つからなかっただけ

(それくらい、大好きなんだ)







「…アレン君、キスして?」








20110323



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