【何の話?】

「兄弟、一つ取れ」

イールフォルトは、色んなチョコがぎっしり詰まったお菓子の箱を持って、グリムジョーの従属官達に配っていた。
現世出張のお土産らしい。

「兄弟、どれにする?」

イールフォルトはエドラドにそう聞いた。エドラドは「中にキャラメル入ってるやつ」と答えて、貝殻の形をしたチョコを口に放り込んだ。
次にチョコを渡すのはナキーム。昔、紅茶の味のクッキーを食べていたく気に入っていたので、イールフォルトは四角いチョコを指差しておススメした。

「兄弟、おススメはコレだ」
「じゃそれ貰うわ。…あ、ウマい」
「兄弟好みの紅茶味だからな」
「サンキュ」

その次はシャウロンだった。
シャウロンは何も考えずに模様の入った四角いチョコを取ろうとすると、イールフォルトがあっと声を上げた。

「悪い、それは返してくれないか兄弟」
「何故」
「弟の分にしようと思って…」
「フム…」
「代わりと言っては何だが、兄弟は2つ選ぶと良い」
「フム…」

シャウロンは白くて丸いのと、トリュフになっているものを選んだ。もう残りは少ない。
次に向かうのは、あの男の子の座るソファ。

「…カス、どれにする?」
「カスじゃねえし!」

ディ・ロイはプリプリ怒りながら「一番甘いのどれだ?」と聞いた。イールフォルトは冷たく「知るか」と答えながらも説明書きを見て「これじゃないか?」とディ・ロイの口にお花の形になったチョコを放り込んだ。「あまぁい!」と可愛い声をあげてディ・ロイは飛び跳ねた。

さて、イールフォルトは唯一の女の子の従属官の前に立って、新しい箱を取り出した。今度はカラフルに光る、更に高級そうなチョコがズラリと並んでいる小さい箱だ。

「わあ!美味しそう!」
「姉妹、どうする。全部姉妹の分だが…一つずつ順番に選ぶと良い」

えっと、えっと、と可愛らしく悩むその子と向かい合うイールフォルトの隣に、いつのまにか我らが王であるグリムジョーが立っていた。
王は、青い瞳を悩ましく細めて、イールフォルトをちらりと見た。

「オイ、イールフォルト」
「何だ?我が王」
「コイツを姉妹って呼ぶと、テメェも女になるだろうがよ」

なんと、王の口から出たのは突っ込みであった。イールフォルトは「確かにそうだな…」と言ってから、可愛い同僚に微笑んだ。

「じゃあ今日から俺が姉の恭子さんだな。お前は妹の美香さんだ。これで正真正銘、姉妹になったぞ」

イールフォルトは、いきなりその子を姉妹と認定した。しかも、なんだかゴージャスでブリリアントではないか。
可愛い従属官は返事に詰まり、あはは、と曖昧に微笑んで誤魔化した。それよりも早くチョコが欲しいだろうに、可哀想である。

こんな時に場を収めるのは、いつだって我らが王だった。グリムジョーはイールフォルトのボケとも親切とも取れぬ会話に割って入り、ツッコミを入れた。

「いや、ファビュラスになってんじゃねーよ」
「…じゃあ、アレだ。俺がえりこさんで、お前がみほさんだな」

またイールフォルトは可愛い同僚に微笑む。
グリムジョーがすかさず突っ込む。

「ここは阿佐ヶ谷じゃねえんだよ」
「成る程…。では、俺がまな。お前がかなだ。知ってるだろう?この2人…」
「あは…」

彼女にこのネタは伝わっていないようだ。グリムジョーはイールフォルトの肩を叩いた。漫才が成立しかけている。

「…それはザエルとやれよ」
「いや、ザエルアポロとなら…ざ・たっちだな」

どうだ?と言わんばかりに片眉を吊り上げて見せたイールフォルトに呆れたグリムジョー。
ついに諦めて、適当にまとめる事にした。

「…そうか。笑い目指して100万獲ってこいよ」
「そのつもりだ。…で、姉妹。どれにする?」

ここまで黙って聞いていた彼女は、すでに本題を忘れかけていて、「あの、何の話でしたっけ…」と、破面らしからぬ可愛い表情でイールフォルトを見上げた。
それにズキュンとやられたイールフォルトとグリムジョーは「忘れた…」「俺も忘れちまったな…」と言って立ち尽くしている。

本当に、何の話だっけ。
イールフォルトの手の中でチョコが寂しげに輝いている。

(おわり)


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