金曜日の教室は、朝からちょっと浮かれていた。
騒めく教室はまるで、お笑い芸人の楽屋みたい。あっちからもこっちからも、大きな笑い声が飛び交っているし、気付けば何処かでコントが始まっている。男子校の騒ぎ方って、独特。
バズビーはその喧騒を掻き分け、机に突っ伏して眠るノイトラの席へと向かう。そうして、ノイトラを起こすかのようにわざとゴトンと音を立てて、コンビニのビニール袋を置いた。

「…あ?何コレ」
「やる」

不機嫌そうに顔を上げたノイトラは、バズビーの含みのある微笑を見て、訝しげに大きな袋の中を覗いた。中にはコーラとポテチが詰め込まれている。

「うわ、急にどした、お前」
「あ?分かるだろ」

少し考えて、ノイトラはふと顔を上げた。

「…アッ、万引き?やるなァ」
「バァカ!テメェ、今日何日だと思ってンだよ」
「や、分かってるっての。マジでサンキューな」

片方の口角を吊り上げてノイトラは笑った。そう、今日は彼のお誕生日らしい。

「おお。もっと感謝しやがれ」
「バズビーサイコー」

棒読みで喜んだノイトラは、ホームルーム前だというのに、早速ポテチもコーラも開封してしまった。

「バズビーも食えよ。朝ポテチ」
「サンキュ」

ホームルームまで、あと5分。
男子2人にかかれば、ポテチ一袋なんて瞬殺であった。
ノイトラの口元に青のりがくっついたまま、朝のホームルームは始まる。起立、礼、着席。全員そっぽを向いたまま、ダラダラと行うコレが毎朝の恒例行事。
なんだか、楽しい1日が始まりそうではあるまいか。

朝イチのバズビーを皮切りに、ノイトラには続々とプレゼントが手渡された。
2番手のザエルアポロからは「これ、美味しいって評判なんだ」と、世界一マズイで有名な真っ黒いグミを渡された。ノイトラは丁重に「クソうれしーけど、気持ちだけ貰っとくわ」と、突き返した。おやおや、釣れない男だなんて笑われて、最終的には学ランの内ポケットに、無理矢理捩じ込まれてしまった。あとでイールフォルトにあげよっと。
その次、グリムジョーが「お前の主食」と真っ赤なパッケージが目に痛い、蒙●タンメンをプレゼント。ノイトラは恭しく受け取り「既に目が痛えな」と笑った。しかも1つだけじゃなくて、3つもくれた。やっぱりグリムジョーは気前が良いオトコだ。どこまでもカッコいい野郎だぜ。
更に次、優等生のウルキオラ。黙って白い手をニュッと突き出して「お前のエサだろう」と言って、『眠気スッキリ!超ミント!』と書かれたガムの束を何本か手渡した。確かに眠気覚ましとして、よく食べているけれど。「いや、エサじゃねえよ」と言いながらも、ノイトラは少し照れていた。
お前ら、俺のこと結構好きじゃね?と。

こんな様子を見ていた同じクラスの奴らはもちろん、隣のクラスのノリの良い男共も「ノイトラ誕生日なの?マジ?やったじゃん!」と言っては、お菓子を置いていってくれた。更にその隣のクラス、もっと隣のクラスとお祝いムードは伝染して、ついにノイトラ机の上には、お菓子で作られた小さな山が出来上がった。

「俺…モテすぎ?」
「自惚れんな、カス」

グリムジョーはそう言って、お菓子の山からブ●ックサ●ダーを勝手に取り出して食べた。なんなら、近くに居たザエルアポロとウルキオラにも配っている。
ノイトラは全く意に介する様子もなく「俺にもソレ寄越せ」と言った。
そうして、胸の内ポケットから可愛らしいパッケージのお菓子を取り出した。ザエルアポロがくれた、世界一のグミである。

「つーか、ザエルのが1番嬉しくねェんだよな」
「おや、心外だね。ノイトラなら喜んで袋ごと食べると思ったのに」
「誰が食うかよ」

憎まれ口を叩きながらも、ノイトラは3人の寄越したプレゼントを1番最初に鞄に放り込んだ。素直さの欠片も無い、それでも、どこか憎めないノイトラらしいやり方だった。

ノイトラが記念にお菓子の山の写真を撮っていると、エス・ノトが机の前に突っ立っていた。彼は、同じクラスの不気味なオトモダチである。

「なんだ、お前も俺のファンかよ」
「…ノイトラ、今日、誕生日?」
「そうだ」
「………忘レテた」
「だろうな。お前とは絶交だ、絶交!」

エス・ノトは手に持っていたレッ●ブルを一口飲んでから差し出し、瞳を不気味に細めて笑った。

「此レ、アゲる。僕ノ飲ミカケ、プレミア付キダト思ワナい?」
「思わねえよ!バーカ!」

しかしノイトラはニヤリと笑って、エス・ノトの飲みかけのレッ●ブルを奪って半分くらい飲み干した。

「目ェギンギンになりそーな味する」
「アはっ」

黒髪の男同士がキャイキャイやっていると、スタークが「ノイトラ!」と廊下から呼びかけた。隣にはアスキンとかいう色男まで居るじゃあないか。
なんと、カッコいいお兄さん方も駆け付けてくれたらしい。
ノイトラが廊下の方を向くと、スタークは内ポケットから煙草をゴソゴソと取り出して、「俺の愛、受け取れよ」と投げて寄越した。

「やっすい愛だなァ、オイ」
「…最近値上げして、高いハズなんだけどな」

おかしいなと頭を掻くスターク。その隣で口笛を吹きながらコンビニのケーキをパカ、と開けるアスキン。2人は大御所登場みたいな感じで、ゆったりとした動きで教室に入ってきた。

「俺からの愛も、受け取ってくれよな」
「ハッ!コンビニで買える愛かよ」

アスキンはウインクして誤魔化しながら、机の上のお菓子を少し避けて、ノイトラの目の前にケーキを置いた。
白いショートケーキがちょこんと置かれている。ご丁寧に、フォークまで添えてあるし。

「…なんか足りなくね?」

呟いたのはグリムジョー。

「足りないね」

頷いたのはザエルアポロ。

「ロウソクが足りないんじゃないか?」

気付いたのはウルキオラ。

「…花火なら俺のロッカーにあるわ」
「アッタね」

悪ノリしたのはバズビーとエス・ノト。
「マジで言ってンのかよ」とせせら笑うノイトラを尻目に、バズビー達はロッカーをガサゴソ。スタークは準備万端に「火ならあるぜ。早く持ってこい」とライターを取り出している。

「花火発見伝!」
「いや、バカなの?お前ら」

おバカさん達はケラケラ笑いながら、あっという間にケーキに花火をブッ刺した。シュールすぎる光景に、ノイトラもつい笑えてしまう。ケーキに花火って。しかもお店とかで出てくるオシャレなやつじゃない。夏の残り物の花火だ。一体何なんだ、コレは。

「じゃ行くぜ。着火」
「ノイトラおめでと〜」

カチ、とライターの火が付けられると、花火はジュワジュワ音を立て、煙を吐き出しながら燃えてゆく。

「うわ、煙くせえなオイ」
「大丈夫?これ、スプリンクラー作動しないかい?」
「大丈夫だろ。俺、前に教室で煙草吸っても平気だったぜ?」
「スタークの大丈夫は信じられねえな…」

花火が燃え尽きると、「じゃあこの辺で歌っとく?」と、誰かが言った。ソレもそうだ。コレでシメだなと、男たちの下手くそなハッピーバースデーの歌が響き渡った。
ノイトラは迷惑そうに、それでも込み上げる笑いを抑えられず、ケーキにフォークを刺しながら毒付いた。

「ありがとな。もういいぞ。やめろ。うるせえぞ」

これが照れ隠しなのか。はたまた、言葉通り、本当にそう思っているのか。
教室のみんなは、ちゃんと分かっていた。

すっかり煙幕でも張られたような教室内には、また新しいお客様が登場した。
現れたのは、真っ赤なバラを携えたあの人。美しい瞳の輝きは、真っ直ぐにノイトラを捉えている。

「ノイトラ様、おめでとうございます!」

テスラだ!テスラ・リンドクルツ!
自称、ノイトラの右腕じゃあないか!
その本気か遊びか分からない熱量に、教室はどよめいた。ノイトラは、流石になんかヤベェ気がするぜとテスラに駆け寄った。

お誕生日のお祝いっていうよりも、薔薇の花束って、なんていうか、その…。

「お前、プロポーズかよ…」
「いいえ、違います」

テスラはふっと笑って花束のリボンを弄った。

「お誕生日、おめでとうございます!」

ノイトラの顔目掛けて、花束は銃口の如く向けられた。すると、派手な音を立てて、花束のド真ん中からクラッカーが飛び出て、パァンと鳴らさた。
辺りには、金や銀、色とりどりの紙吹雪が舞う。中にはノイトラとテスラが撮った、最初で最後のプリクラも混ざっている。なんという芸の細かさだろうか。
ニヤリと不敵に微笑むテスラは、腰を抜かしたノイトラの手を取り「で、こっちが本命の方のプレゼントです」と、指輪の入っている小箱を握らせた。中身はちゃんとカッコいいシルバーリングだから、読者の皆様にはご安心頂きたい。

「お前さァ、洒落にならねえから!マジで!」

天を仰いで、ノイトラは叫んだ。もう最悪。
悪い友達とつるんでると、ロクな事がない!



陽の沈みかけた教室は、柔らかい光に包まれ、時間遅れにスプリンクラーが作動した。雨の如く、ざあざあ水が降ってくる。お菓子を山分けしていた男の子達は、呆然として天井を見上げた。
花火の煙が検知されてしまったらしい。辺りは「火事です」という無機質なアナウンスと、けたたましい警報音が鳴り響いている。
白い学ランが水を吸い、灰色に色を変えてゆく。男の子たちは色っぽく髪を濡らしながら、荷物を掴んで教室から飛び出した。先生に見つかる前に、逃げろ逃げろ!
誰もが昇降口を目指し、風のように駆け抜けてゆく。

次の日、彼らが先生にこっ酷く叱られるのは、また別なお話。

これが、かの有名なノイトラ・ジルガお誕生日事件であったそうな。
めでたし、めでたし。



2022/11/11ノイトラくんのお誕生日記念にアップしたわちゃわちゃ小説です。
大好きなノイトラくん、お誕生日おめでとう。かれこれ3回目の再熱。なんだかんだ、君が1番理想の男なんだよ。これからも推させてね。
支部にも格納済です。


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