※流星隊のニチアサパロ

1999年、ノストラダムスの大予言は外れたと人類は勘違いしてしまった。
実を申すと、あれは大いに的中していたのである。
恐怖の大王は、あの時、人知れず地球に降り立ち、じわじわとこの星を裏側から蝕んでいったのだ。
その手下である怪人達は目覚め、人類へと牙を剥き始める…。



第一話【俺たちが流星隊だ!】

「ぷか…⭐︎ぷか…⭐︎」
流星ブルーはうみの生き物なので、基地に作られた大きい水槽に浮かんでいる。水槽の底の方では綺麗なお魚達が群れを成して泳いでいた。
ここは、怪人から人類を守るスーパーヒーロー、流星隊の基地だ。怪人への作戦を練ったり、会議したり、トレーニングも、寝泊まりだって出来ちゃう便利な場所。
ちなみに、お隣には「研究所スウィッチ」があり、ヒーロー達の特別なスーツや、武器を作ってくれている。現代の技術では作れないはずの物ばかりなので、一部の人間からは「魔法を使っているのでは?」と噂されている。

「所長はどうして、こんな馬鹿でかい水槽を経費で作ったんだろう…」

流星グリーンこと、高峯翠はそう呟いて、所長の写真を見上げた。所長とは、三毛縞斑さんの事だ。彼は所長という役割の人ではないけれど、みんなから所長と呼ばれるし、本人も「うむ!」なんて返事をしているので、こう呼ばれ続けている。
彼に(一応の)敬意を表し、この基地では大黒柱に三毛縞所長のデカい写真をかけている。流星隊ブルーだけが「あんな『ごろつき』が『しょちょう』だなんて、『よもすえ』ですね」と、よく写真の前でため息をついているらしい。

「それは、まあ…水槽を作るのは…必要経費…?だからッスかねえ」

流星ブラックの南雲鉄虎はそうフォローを入れた。

「それならプロテインの種類を増やして欲しいなあ…」
「…それもそうッスね」

配られているプロテインはバニラフレーバーだけ。ココアも追加してほしいねと結論した。
すると、1人の可愛らしい隊員が声を荒げて入ってきた。

「た、大変でござるよ〜!」
「うわあ!ぐるって回転する壁から忍くんがぁ!」
「ないす『かいせつ』ですね、みどり」

流星イエロー、仙石忍は顔を真っ青にして入ってきた。忍者らしく、壁がぐるっと回転する、あの部分からの登場だ。
大変でござる!の一言で総員は立ち上がっていた。
そう、これは合言葉のようなもの。
街に怪人が現れたのだ!

「よし、行くッスよ!」
「おう!」

鉄虎が音頭を取ると、全員ベルトに付いているボタンを押して、変身だ。ボタンを押すと、瞬く間に胸のバッチが光った。
へーんしん!4人の声が重なって、辺りは眩ゆい閃光に包まれる。
ゆけゆけ、流星隊!人々の平和を守る為に!




「え?プロレス?」
「あちゃ〜…素手でやっちゃってるでござるよ〜」

現場にたどり着いた流星隊。そこで目にしたのは、怪人の壊した建物や、車。逃げ惑う人々。
それから…。
変身せず、生身のまま怪人と取っ組み合いをしている、我等が隊長、流星レッドの守沢千秋。
パッと見、ヒーローではなく、怪人に突っ掛かる市民に見える。

「うおお!負けないぞおお」
と、千秋。

「俺の命令が聞けないってのかー!!!」
と、怪人。

変身する暇もなかったのだろう。千秋はボロボロになりながら、怪人を押さえている。

「…もう、何してるんですか!」
「おお、流星グリーン!」

翠は怪人と千秋の間に割り込み、手からパネルのようなバリアを展開した。格子状に電流が走り、時折バチバチ音を立てて青い火花が飛び散る。
怪人はバリアの向こうで、「なんだ!?お前、若造の癖に!」と喚いている。
このバリアは鉄壁だ。どんな攻撃も防げるし、水も火も通さない。守沢千秋の名付けによると、これは『高峯バリケード』。
手の空いた千秋は、ベルトに手をかけ、大地を揺るがすような爆音で「変!!身!!!」と叫んだ。
反響音で近くのビルの窓ガラスが全て割れた。

変身が済むと、まるで朝日のように眩しい瞳がカッと開かれた。

「赤い炎は、正義の証!真っ赤に燃える生命の太陽!流星レッド、守沢千秋!」

ヒーロー、覚醒。
やっと揃った5人組。

「我ら流星隊、参上!」
彼らが来たら、怖いものなど、何もないのだ!



この怪人は、『怪人パワハラー』。よく怒鳴り、暴力を振るい、理不尽な命令をして、高圧的に振る舞うのが特徴だ。
その姿は、まさしく中間管理職の鬼だ。
憤怒相の恐ろしい仏像が、やたらトゲのついたスーツを着込んでいるよう感じだ。手に持っているのは、端が折れて、所々破けている企画書だ。部下の作った企画書を気分が悪いからとグシャグシャにしてしまったらしい。



「隊長、現場の状況は!?」
鉄虎が問う。
「昼下がりのオフィス街に、奴は突然現れた!ビルの一階のロビーで打ち合わせしていた社員を暴行し、そのまま外へ出て…更に被害が拡大した!」
「…許せない!」

おお、あれは都庁ではあるまいか。一階部分は、無残にもボロボロになっていた。基礎の鉄骨も剥き出しになっている。
おそらく、怪人はあそこから出現したのだろう。

「今、俺が足止めしていた間に、市民を避難させている!」

確かにオフィスから人々が逃げ出している。しかし、まだ完全ではないらしい。

「では、拙者たちイエローとブラックで避難誘導するでござるよ!」
「任せて欲しいッス!」

動きの俊敏な2人は、人々を守りながら、敵への反撃をするのが大得意だ。千秋のゴーサインで、2人は弾丸のように飛び出し、市民の元へと駆けつけた。

残るレッド、ブルー、グリーンは真っ正面からパワハラーと対峙した。
すると奴は、大きい声で威嚇を始めた。

「なんだ、お前らは!!!チャラチャラしやがって!!!」
「ひいっ!」
パワハラーはこの中で1番恫喝しやすそうな翠を標的にした。パワハラーは攻撃相手を選ぶのが特徴だ。

「お前、そんな面構えでよく社会人やっていけるなァ!」
「えっ?俺、ですか…?」

翠は自分を指さす。残りの2人は不思議そうに、それを見つめた。

「お前以外の誰だってんだよ、オイ!」
「ええ…絡まれた…。鬱だ、死にたい…」

ずい、ずい、と翠に近付いてゆく怪人。千秋と奏汰は翠を庇うように立ちはだかる。2人のその表情は、険しく、真剣そのもの。
すると、パワハラーは少し怯んで後退した。
それでも翠への罵詈雑言は止まらない。奴は、安全な場所で、やいのやいの喚くだけだった。

「…『こうげき』、してきませんね」
「ああ。罵倒しかされていない。おかしいな…」
「俺がこんなんだから…?攻撃すらしてもらえない…?」
「いいや、それは違うぞ…」

パワハラーはヒーローから少し離れた場所で、近くにあるものを叩きながらブツブツ独り言を言っている。遠くで逃げ惑う市民を見て「ボケが!!!」と怒鳴ったり、突然、脈絡もなく自慢話を述べたりしている。
その幼稚さと愚かさは、見ていて痛々しい程である。

「おい!パワハラー!」

千秋が大きな声で叫ぶと、パワハラーはビクッと体を揺らして、気まずそうに上目遣いでこちらを向いた。

「お前の目的は、一体なんなんだ!?」
「…」

パワハラーは黙った。
まるで叱られた小学生のようにムッツリ黙っている。いくら時間が経っても、動かない。
このまま、夜を迎えてしまうのかしら。なんて思い始めた頃、沈黙を破るように忍と鉄虎が戻ってきた。

「隊長!みんな避難し終わったッスよ!」
「半径1キロ以内に人は居ないでござる!」
「ああ、2人とも、ありがとう…!」

パワハラーは、比較的体の小さい2人を見て、意気揚々と近付いてきた。

「こんな小せえのが、ヒーローなのかあ!?」
「わあっ!急になんなんスか!?コイツ!」
「むむ!喋るタイプの怪人でござるね!?」

パワハラーはこう怒鳴り散らかした。しかし、訓練された流星隊は動じない。
ここで、奏汰はふと気付いた。

「この、かいじんは、『じぶん』よりも『よわい』ひとに、『どなり』ますね…?」
「!確かにそうだ…」

千秋も漠然と疑問に思っていた事に、答えが出た。変身する前の千秋や、力のない一般市民には強く出る。
しかし強そうなヒーローの前ではどうだ。攻撃の一つもしてこない。
翠や、鉄虎、忍にだけ絡み、千秋と奏汰に対しては視線も合わせてくれない。

「…ならば、とっても偉い人を連れてきたら、この怪人は…」
「そうです!このかいじんは、じぶんより『つよいやつ』が『じゃくてん』のはずです…!」

この指令は無線で全員に伝えられた。
怪人より、強そうな奴を連れてくるのがミッションだ。奏汰と翠の2人でで怪人の相手をする事にして、他の3人で協力して、強そうな奴を引き連れてくるのだ。

「強そうと言えば、やはり…天祥院か?」
皇帝。美しく爽やかな笑顔が脳裏に浮かぶ。
「んー、でもあの人って、見た目が王子様にしか見えないというか…。もっとこう、社長!みたいな人の方が…?」
「でも、社長の知り合いなんて、居ないでござるよお〜」

3人は荒廃した街を駆け回っている。
どこか!どこかに、強そうな奴は居ないのか?



場所は変わり、あの騒動から、少し離れたところ。
哀れにも、2人の美少年が迷い込んでしまった。

「ジュンくん、なあに?この街は?どこもボロボロ…。ああ、なんて悪い日和!」
「うわあ…これ、怪人でも出たんじゃないですか?」

瓦礫や、サイドが大きくへこんだ車があちらこちらに散らばっている。人っ子も1人もいない。
2人はその荒廃した様子に呆気に取られて固まってしまった。
すると、そこに光る3つの流星が現れた。

「あれっ?お前たちは…」
千秋は2人を見つけて、足を止めた。鉄虎と忍も同じように立ち止まる。

「おや!流星隊のみんなだね!怪人が出たのなら、僕を守るといいね!」
「えっ、本物の流星隊だ!って事は…近くに怪人が居るはずッスよぉ!早く逃げないと!」

ジュンが荷物を持ったまま、日和の体を大きく揺さぶった。
「ジュンくん、焦らなくて良いね。ほら、ヒーローが来たよジュンくん」と、のほほんとしているお金持ちの少年を見て、流星隊はひとつ閃いた。
考えることは同じで、3人は同時に視線を合わせて頷いた。

「巴日和…確か、お前の父親は、社長だったか!?」
「うん!そうだね!何かご用事かな?」
「実は、今、ものすごい用事が出来たんだ!」





「だぁから、お前らじゃ話にならねえんだって!もっとマシな奴連れて来いってェ!」

奏汰と翠は、やっと攻撃を始めたパワハラーをどうにかやり過ごしていた。
手から出るビームの強さは伊達ではない。口から発せられる罵詈雑言を聞いていると、頭がクラクラしてくる。

「くっ…だめだ、視界が…」
「みどり…あきらめちゃ、だめ、ですよ…」

きっと、きっと…3人が、偉い人を連れてくるはず…!

それまで、怪人をここに留めなくては!
でも、奏汰も翠も、顔色が悪い。
ああ、一体どうなってしまうのか…。
果たして、流星隊は怪人に打ち勝つことが出来るのであろうか?



「やあ!みんな、待たせたねえ!」

その時、ヘリの轟音に負けない、日和のよく通る声が響いた。もちろんマイクも拡声器も通していない。

「大丈夫か!?流星ブルー!流星グリーン!!!」

ヘリの轟音を打ち消すほどの大きい声で千秋が叫んだ。また、反響音でビルのガラスが全て割れた。
ヘリは梯子を垂らして、中に乗っていた千秋、日和、そして権力の権化、日和の父親を瓦礫の山へと下ろした。
忍と鉄虎、ジュンはヒーロー専用のバイクで追いかけて、やっとたどり着いたところだ。
役者がやっと揃ったのだ!

「おい!怪人、パワハラー!」
「!?」
「この人の肩書きを、俺が教えてやろう!」
千秋は、巴日和の父親の隣に立って、大声で叫んだ。

「この方はなあ…巴財閥の…!」
「なっ…!?」

怪人パワハラーは怯んだ。やはり権力の前では無力なのだろうか。

「あの、巴グループの代表取締役社長の…」
「グワァアア!」

怪人はもんどり打って苦しんだ。口から泡を吹いているけれど、胸元から名刺を取り出すような仕草までしている。
権力に屈しつつ、それに従属しようとする浅ましさが滲み出ている。
なんと哀れな姿であろうか…。

「今だ!総員、エネルギー砲チャージ!発射カウントは5秒だ!」
「御意でござる!」
「おう!」
「いきますよぉ」
シャキン、とエネルギーを充填する音が響く。
「流星グリーンは、バリア展開!高峯バリケードでヒーロー以外の人員を守ってくれ!」
「もう、やってますけど…」

エネルギー砲発射まで、残り3秒。
鋭い閃光が、天を貫いた。




あれから何日かして、素敵なカフェにて。

「流星隊、お手柄!だって。ねえ、ジュンくん、僕たちの写真も載ってるねえ」
「おひいさん、その新聞何冊買ったんスか?」
「あるだけ買ったね!」
「はあ…アンタって本当に…」

よく晴れた日曜日の午後は穏やかだ。テラス席に燦々と美しい陽射しが降り注いでいる。
あの日の出来事なんて、まるで夢のようだった。

「怪人なんて、一体どこから出てくるのか…興味深いよね。ジュンくんも、気になるよね?」
「まあ…でも、災害みたいなモンと思えば…」
「んもう!そうじゃなくって…」

俄に、街で悲鳴が上がった。
まさか、怪人か!?日和とジュンは席を立って、声のする方を見上げた。

「お前は、怪人『エンジョウマン』…!」

あれは流星ブラック。勇ましくバズーカ砲を掲げている。

「炎上〜♪戦場〜♪俺様が変えてく現状〜♪」

小賢しい怪人は、奇妙なダンスをしながら炎を操っている。

「火遊びは、もうおしまいだ!俺たち流星隊が、その悪の炎を消し去ってやる!」

ああ、我らが隊長、流星レッドの勇敢な声が聞こえてくるではないか。
明るい5つの流星が街で光を放っている。
今日もこうして、地球の平和が守られているのであった。

(おわり)


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