「ねー俺今日誕生日なんだけど」

ディ・ロイは言った。

何気ない感じで、言ってやった。
好きな女の子と放課後、教室で2人きり。ではないけれど。誰も俺たちの会話なんて耳に入っちゃいねえ騒がしさの中、ディ・ロイは勇気を振り絞った。
好きな子に、誕生日だとアピールしたのだ。

好きな女の子は「へえ」と興味なさげに言って、鞄をゴソゴソし始める。

意外にも無表情な彼女を見て、ディ・ロイは拍子抜けしつつ、胸の内をバクバク跳ねさせた。
どういう気持ちなんだ。
もしかして、と期待してしまう。鞄から何か出てくるのか、来ないのか。彼女はコレを聞いて祝ってくれるのか、くれないのか。

どっちなんだ!

「俺!今日!誕生日なんだけどォ」

反応の薄い彼女に痺れを切らしたディ・ロイは少し大きな声でこう言った。
だって、祝われてえんだよ。17歳の誕生日ってヤツを。好きな女の子に。
しかし彼女は呑気に「そっか」と言ったまま鞄を漁り続けている。

「…何、祝ってくれンの?」
「かもね」

好きな子は鞄から四つ折りにしたルーズリーフを出して、やっと少し笑った。

「マジ?楽しみなんだけど」

嬉しさでガッツポーズでもしたいくらいだった。でも、平静を装ってディ・ロイは好きな子にずいっと近付いた。彼女は「近いよっ」と言って椅子を引いてしまう。
つれない!そこが良いんだけれど。
彼女はルーズリーフを開いてから、エヘンと胸を張った。

「えっと、実はディ・ロイくんの誕生日はちょっと前から知っていました」
「は?」

知っていた。ちょっと前から。
ディ・ロイは混乱した。知ってたって?俺の誕生日を!?好きな子が!?

「それで、ディ・ロイくんの仲良しのお友達…あ、グリムジョーくんとかね。その辺にアンケートを取りました。
ロイくんはお誕生日プレゼントに何が欲しそうか、聞いてみたの」
「え?」
「結果はね、」

上目遣いに見つめられて、ディ・ロイは完全に思考停止した。思わせぶりな表情が、可愛い。可愛過ぎる!
バクバク鳴る心臓も、ドッと吹き出す汗も、全て煩わしい。彼女はそんなディ・ロイの胸の内を知ってか知らずか、勿体ぶって「知りたい?」なんて聞いてくるのだ。
もう可愛すぎて憎たらしい。
短気なディ・ロイは、お返事の代わりに彼女の手の中のルーズリーフをサッと奪った。

「あっ!何するの!」
「良いだろ別にィ。俺誕生日だぜ?主役なんだけど。怒られる筋合いねーし」
「もー、つまんない」
「焦らすからだろォ」

奪い取ったルーズリーフの中には、アンケート結果であるしょーもないプレゼントが羅列されていた。

消しゴム(すぐ無くすから)
金(いつも無いから)
友達(俺アイツの友達じゃないぞ、との事)
参考書(学力に難あり、との事)
お菓子(いつも食ってるから)

きっと、いつも遊んでるアイツらに聞いたんだろう。大馬鹿6人組の残りのメンバーだ。プレゼントのチョイスだけで、誰が誰の回答がよく分かるレベルだ。
消しゴムとか金とか、俺の好きな子につまんねー事吹き込みやがって!ディ・ロイはフンフン鼻息を鳴らして、静かに怒った。
これで嫌われたら、どーすんだよ!

「読んだ?」
「読んだ」
「どう?これ欲しい?」
「いらねーし。俺、消しゴムあるし金あるしダチ居るし」

精一杯ディ・ロイは言い訳をしようとした。別に勉強も困ってねえしお菓子はいつも食ってっけど!
可愛いあの子はウンウン頷きながらもそれをサッと流した。

「だと思った。だからね」

好きな女の子は、机の横に引っ掛けていたピカピカした大きな紙袋を取り出した。
何、コレ。

「はい、プレゼント。ロイくんに似合いそうなTシャツ買ってみたの。いつも制服の中に着てるでしょ?」
「マッッッッジで!?嘘ッ開けて良い!?つか高かったんじゃね!?え!?なんで!?」
「うわ、うるさっ」
「ウワッ…ヤベッ、ちょっ………トイレで着替えて来るから、マジ、マジ待ってて!」
「焦んなくて良いよ」

まるで舞台か何かの早着替えのごとく、超高速で着替えて、トイレからのっしのっし歩いて出てきたディ・ロイ。
背筋をピンとして、胸を張って再登場して、一言。

「コレ、似合ってね?」
「それ、自分で言う?」

女の子って、結構シビア。
あからさまにへこんだディ・ロイに向かって「大丈夫、似合ってるよ」と彼女は励ましてくれるけれど。

「ホントにぃ?」
「ほんとほんと」
「マジで似合ってる?」
「似合ってる似合ってる」
「…嘘くせっ」
「そんな訳ないでしょ!それ、グリムジョーくんと一緒に選んだんだから!」
「え!マジ!?グリムジョーチョイスなのォ!?じゃ間違いねえじゃん!」
「でしょ?良かったあ」
「………え、待って。グリムジョー?」

まるでドッグランに放たれた子犬のようにはしゃいでいたディ・ロイだけれど、突然スッと落ち着いて低い声を出してしまった。

グリムジョーと、好きな子が、一緒に俺の服を選んだ?
それって、それって…。

「あっ、違うの。イールフォルトくんも居たし、シャウロンさんもナキームさんも、エドラドさんも居たから」
「………え?俺、以外…じゃん…」
「でも、ずっとロイくんの話してたから…ねっ」

まんまと友達に出し抜かれてしまったディ・ロイ。
果たして、奴等に邪魔されずに好きな子のハートを射止める事は出来るのか。
カッコいいTシャツを貰ってウハウハしたのも束の間。どうやってあの子を独り占めできようか。

「ねえ!俺抜きで遊ぶのやめてくんね!?」

もうコレしかない。
ディ・ロイには本音を叫ぶ道しか残されていないのであった。
めでたし、めでたし。

(おわり)


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