「ノイトラとグリムジョーやったっけ?なんで自分ら呼び出されたか分かる?」
「知らねー」
「分かった、女子からモテすぎてるからだろ?」
「ハズレやなぁ」

この高校は私立なので、事務員さんが在籍している。それが市丸ギン。彼は見た目も良く、フレンドリーなので、この高校の女子からの人気が高い。人当たりがいい事が災いして、教員からも「ちょっと頼まれてくれよ」と生徒との橋渡しを担う事があった。
今回もそんな感じで、問題児2人を生徒指導室に呼び出し、反省文を書かせるというミッションを一年生の学年主任から頼まれたのだ。

「遅刻多すぎひん?どんだけ夜更かししとん、自分ら」

2人の遅刻の回数は月の半分くらいだった。

「ソシャゲが俺を寝かせねえんだよ」
「朝が俺を離さねえんだよ」
「ていうか、ちゃんと君らのスマホ、フィルタリングかかっとるん?」
「そう見えるか?」
「んな訳ねェだろ、ダボが」
「めちゃくちゃ言うやん…」

呼び出しを食らってもこのヘラヘラした態度。あまつさえ暴言も出るわ出るわ…。
しかし市丸ギンからしたら、元気な野良犬やな、くらいの感覚だった。そんな感じで流されるので、噛み付く側の2人は肩透かしを喰らった。
普通ならこういうやり取りをしたなら「なんだその口の利き方は!」と大人が顔を真っ赤にしてブチギレるのが面白いのに。
ギンはあくまで淡々と反省文を2人の前にス、と差し出した。

「えーと、じゃあ反省文3枚。あと一応、今後気をつけた方がええかもな」
「3枚だと?情けをかけられンのは嫌いだ。100枚でも持ってこいよ」
「ああ、報いは受けるって話だ」
「君らめんどくさいなぁ」

はよしいやと笑われるとノイトラもグリムジョーも、シャーペンを握っても良いかなと思える。なんだかこの男に良いように扱われた感じが癪でもあるけれど。
生徒に反省文を書かせている間、ギンは普通にスマホをいじって「お、議員さん捕まっとるわぁ」と呟いている。
このヌルい雰囲気、2人とも嫌いではない。

ノイトラは中学時代、毎週書いていた反省文の内容をスラスラ思い出し適当にマスを埋めた。グリムジョーはそれを見て、ほぼコピペする勢いで書き進めてゆく。

「…なんか書き慣れてへん?」
「中学の頃、毎週書いてたからよ」
「自慢にならへんやんか」

2枚半書き終わる頃、ギンはスマホから目を離し、2人に声をかける。

「真面目にやれば早いやん」
「舐めんな」
「褒めても噛み付かれるとは、怖いわぁ。あ、こっちももう終わるやん。ハイ、貰うでぇ」
「おお、持ってけ」
「俺も上がりだ」

ギンはトントンと反省文をまとめて「ほなまた。あんまココ来ない方がええんやけどな」と言って2人を連れて廊下へと出た。
ノイトラもグリムジョーもじゃあなギンちゃんと気安く挨拶して帰る事にした。

「アイツか、女子が騒いでるギンちゃんっつーのは」

ノイトラは飄々としたギンの横顔を思い出した。確かに綺麗な顔はしていたと思う。

「なまえの仲良しも、ギンちゃん好きっつってたよな」
「女子の趣味分かんねえな」
「ああ、一生分かり合えねえ」
「女子なぁ…」

女子。
ノイトラは今、それで頭を悩ませていた。気になる女の子、なまえと最近あんまり話せていないのだ。
テストが終わってから、タイミングが悪くてロクに話せていない。更にザエルアポロの襲撃もあった。だからこそなまえの心をどうにかこちら側へ寄せなければ…というか、確実なモノにしなければ…。
しかしノイトラはまだ連絡先すら知らない。それって、まだまだ初歩の段階に留まっているという事だ。

もう放課後も遅い。なまえはとっくに帰っているだろう。今日もマトモに話せなかった。ボケっとしていると、ノリの良い男子やら女子が最近やたら話しかけてくるのだから、なまえに話しかける暇が無かったのだ。
教室に戻ると、やはり誰も居なかった。

「…帰るか」
「だな」

その時、ノイトラのスマホに通知が入った。

「あ、ナオキさんだ」
「誰だそりゃ」
「服屋のまあまあ偉い人」
「それがお前に何の用だって?」

通知を開くと、「お久しぶりです!また撮影したいんだけど、良いかな?平日夜だと助かります!」と簡単な依頼が入っていた。

「写真撮らせてくれって」
「…え?」

グリムジョーは色々な想像をした。写真?なんの?どんな?表に出せるヤツか?

「変な顔すんなよ!アレだアレ、インスタのモデルみたいな」
「カッケェかよ」
「まあな。俺がカッコいいんだとよ」

了解です。平日夜いつでも空いてます。と、ノイトラは簡単な返事をした。
そういえばグリムジョーにこの話はしてなかったと思い返し、簡単にこの人と知り合った経緯を教えた。



高校に入学する直前の春休み、いつもの美容室で予約が取れなかった。仕方なく、別な美容室で髪を切って貰う事にした。
すると担当した男の美容師が、仕上がりを見て満足げに頷き、「インスタに写真上げても良いですか?」なんて聞いてくるので、悪い気もしないし良いっすよと返事をした。
すると、その投稿を見たアパレルショップのチーフ、ナオキさんがノイトラに惚れちまった。ショップで運営しているSNS用のモデルとして起用したいと申し出があったのだ。美容師経由でその話を聞いたノイトラは、なんかカッケェ依頼だなと二つ返事で承諾した。

「んでまたお願いされたワケだ」
「お前…なんか腹立つな」

カッコいいノイトラならではのエピソードだろう。
そんな事を言いながらも、グリムジョーだって人が聞いたら腹立つようなエピソードの持ち主だ。
見た目はカッコいいし、背も高い。よくラブレターを受け取るし、街を歩けば大抵の女の子がグリムジョーに釘付けだ。
話してみれば根が優しいのもすぐに分かるので、彼と関わった女の子は、大抵一度は恋をする。失恋までがセットなのが悲しい事だけれど。
それに女子の間ではグリムジョーの写真を共有し合っているチャットグループもあるらしい。モテる男は大変だ。

「つーかお前もインスタ?に載ってるだろ」
「あれは…そういうんじゃねえよ」

そう、グリムジョーも美容室のお兄さんに惚れられている。髪を切るたびに「New Look(ハサミの絵文字)」というコメントと共に写真を掲載されている。やっぱりモテる男は大変だ。
ちなみに、これも例のチャットグループ内で共有されている写真のひとつである。

「お前も向いてそうだけどなァ、こーゆーの」
「俺はなぁ、お前と違って写真苦手なんだよ」
「ああ…なんか分かるわ」

ノイトラはナオキさんの指定した日に、件のアパレルショップへ向かうことにした。






「これ貰っていーんすか?」
「うん」
「マジすか?アザス…カッケェ…」

ナオキさんは撮影器具を片しながら、さっき撮影で使ったTシャツをそのままプレゼントする事にした。仕入先が余分にくれたものだし、事実、ノイトラにはそれが良く似合っていたので。

「ノイトラくん、本当に高校一年生?もう下手な大人より全然カッコいいよね」

ナオキさんはデータを確認しながら、溜息を漏らした。ノイトラはスタイルは抜群だし、顔も整っている。すらりと細長く、骨っぽい指先すら絵になって、シルバーアクセサリーが良く映える。
更にノイトラには年齢の割に妖艶な雰囲気があった。フィルム越しでも人を惹きつける何かを持っている。これぞナオキさんの求めていたモデルそのものだった。

ナオキさんの務めるお店は、アパレル系のセレクトショップだ。古着もちょびっと扱っている。コンセプトは、とにかくオシャレ。ちょっと質の良い、男ウケはもちろん、女の子にも受けそうな絶妙なオシャレ感のあるお店だ。だからこそSNSでも気は抜けなかった。
当初はショップのスタッフをモデルに使っていたけれど、やはり雰囲気に欠けるものがあった。アパレル向きのカッコいい男の子しか雇っていないものの、あともう一押し欲しいのが実情だった。
だからあの日、ナオキさんを担当している美容師がノイトラの写真をアップしたのを見て、これだ!とつい叫んでしまったのだ。

「ノイトラくん、またお願いね」
「あざす」

ノイトラはついでに店内を少し見る事にした。ふと目についたのは、ガラスのケースの中に入った素敵なブレスレット。シルバーがチカチカ輝いている。

「うわ、これマジ良いっすね」
「それ高いよー。大人になってから買いな」
「値段…30万?…」
「俺も買えないよそれ」

ナオキさんは「売るしか出来ないよ。ほんと」とガラスをトントンと叩いた。
経済力が欲しい。ノイトラは好きなあの子と遊ぶための金がもう少し欲しかった。
今日も茶封筒に入った撮影料が手渡されたものの、少し遊べばすぐに消えてしまう金額ような金額だった。

「…ねえナオキさん、なんか良いバイトないッスか?」
「んー…バイトかあ…。あ、ノイトラくん普通にうちの店で店員やらない?君、目立つし。広告塔みたいな店員さん欲しかったんだよね。その分、モデルはバイトの一環になっちゃうけど」

大学生のバイトくんが就活で1人抜ける予定だったので、ナオキさんは渡に船と誘いをかけた。おそらく店長も快諾するだろうし。
勿論、ノイトラを見た時から店に誘いたい気持ちはあったけれど、なかなか言い出せなかったのだ。まだ高校生だし。

「!マジすか」
「確かお友達もカッコよかったよね?さっきの写真の子」

ナオキさんはノイトラと仲良しだ。
撮影しながら色んな話をしているので、グリムジョーの事もナオキさんは知っている。

「それは…それは…知らんス」
「あはは、なんだそれ。あの水色の髪の毛の子。2人とも大歓迎だよ。まあ、無理にとは言わないけど…」

すぐ返事は要らないからね、少し考えてみて。

そう言われたものの、ノイトラは次の日の夜、早速ナオキさんに「バイトしたいんスけど」と連絡を入れた。ナオキさんは笑いながら履歴書を持っておいでと言った。




「俺バイト決まった」
「この間の店か?」
「そ」
「…お前、いらっしゃいませとか言えんの?」
「テメェにだけは言わねえ」

ファーストフード店の一角で、カッコいい2人が駄弁っていた。他校の女子高生も、男子高校生も、どうしてもそちらを見てしまう。とはいえこの2人、チラチラと向けられる視線には慣れっこだった。
ふとノイトラの近くに、同じ高校の制服の女の子が足を止めた。

「あれ?ノイトラくん?」
「あ?なまえじゃねえか!」

なまえと、いつもの仲良しグループが仲良くトレイを持って突っ立っていた。

「偶然だなァ。そうだ、隣来いよ」
「あ、えっとね、そうしたいんだけど…」
「なんだ?」

夢主達の後ろから、嫌ァなピンク頭と、青白い肌の美男子、ウルキオラが顔を出した。

なんで…。
どうして…。
ノイトラは久し振りに目が虚になった。
もしかして、なまえ、お前…。

「あ、ダメだよなまえちゃん。その野蛮なノイトラとかいう男と喋っちゃ」
「や、やっぱ仲が悪いよね?」
「ザエル、テメェ…」

ザエルアポロはノイトラを煽るのが楽しくて仕方なかった。対してウルキオラはグリムジョーに少し懐いているようで、ほんのり瞳に光を宿している。

「グリムジョー、居たのか。お前も混ざるか?勉強会だ」
「テメェらでやってろ。興味無え」
「…そうか」

ウルキオラはキッパリ断られて、少ししょげていた。しかし表情は変わらない。若干、口角が下がったくらいだろうか。

女の子達は特に苦手な数学を教えて貰っていた。ザエルアポロは得意げに解説をしては、女の子に無駄に微笑みかけている。ウルキオラは淡々と教えつつも、可愛い女の子の前で少し怯んでいたようだ。この中では珍しく、年相応の反応を示している。
なまえだけが端っこに座り、居心地悪そうにして、ノイトラに視線を向けていた。その寂しそうな、少しバツの悪そうな顔といったら…。

…可愛すぎる。

ノイトラは我慢ならなかった。チームザエルアポロの席に向かい、なまえの腕を掴んだ。

「コイツ借りるわ」

なまえのお友達一同は、顔を見合わせてからニヤリと笑って「どうぞどうぞ」と荷物ごと彼女を引き渡してくれた。
唯一、ザエルアポロだけが、面白くなさそうな顔をしている。

「浮気、楽しかったか?」
「ちが…違います」
「俺ァ寂しかったけどな」
「なんか…ごめんね」

しょげた仔犬のように肩を落とすなまえ。それを見たグリムジョーは、面倒な野郎に絡まれまくって、可哀想な奴だなと思った。
可愛い女の子も大変だ。

「オイなまえ知ってるか?ソイツ、バイト始めるってよ」

グリムジョーは可哀想な女の子に助け舟を出す事にした。あの様子だと、なまえはおそらくノイトラに惚れているだろう。ザエルアポロに横取りされる前に、ノイトラとくっついた方が良さそうだと判断したのだ。
あの2人の間で夢主争奪戦が始まったら、この狭い学校に地獄の門が開かれてしまうだろうから。

「そうなの?どこでやるの?」
「服屋」

ノイトラはスマホをいじって、お店のインスタのアカウントを見せた。この間撮ったノイトラの写真も上げられている。

「うわっ、オシャレ…あれ?ノイトラくん映ってる?」
「ちょっとな」

わー…と感嘆のため息がなまえから漏れた。すごい。ノイトラくん、すごい。瞳がそう物語っている。

「別世界の人って感じがする…」
「安心しろ。中身はゲスだ」

グリムジョーはノイトラを見て鼻で笑った。ノイトラはグリムジョーの軽口はあまり気にしない。

「ここ、女子の好きそうなモンは売ってねえけどな」

ノイトラはなまえと距離を詰めながら話した。

「たしかに。でも今度バイト中のノイトラくん、見てみたいかも…」
「あっちの友達と一緒なら来やすいだろ。今度来いよ。あ、ザエルとかは絶対連れてくんなよ」
「うん」

なまえはグリムジョーの視線を感じて、ふと顔をそちらへ向けた。すると悪い企みの笑みを浮かべる青い瞳が見えた。

「じゃあなまえ、俺と一緒に冷やかしに行こうぜ」
「あ、それ良いかも!」
「良くねえよ!あっちの女子達と来いよ!」
「俺となまえだってトモダチだぜ?そうだろ?」
「うん。私とグリムジョーくん友達だから」

なまえはノイトラを揶揄う側に回れて楽しいらしく、グリムジョーと「なあ」とか「ねえ」と言い合っている。
ムカつく…。

「…好きにしろ」

お手上げ。流石のノイトラも降参だった。
しかし降参するだけじゃ済まないのが、このノイトラ・ジルガ。
そうだと思い付いて、余裕そうな顔をしているなまえにずい、と迫る。

「なあ、俺のシフト知りたいだろ?」
「うん。今度教えてほしいな」
「いつでもお前が来れるように教えてやっからよ」

机の上に置かれたなまえのスマホを指で叩く。

「教えろよ」

久し振りに赤面したなまえを見下ろす。そうそう、この顔が一等可愛いんだ。なまえの事はこうしていつでも掌の上で転がしてやりたいんだよな。

だってノイトラだもの、いつでも俺が1番じゃなきゃ気が済まないのであった。



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