〜前提〜
なまえちゃんとロイくんは席が隣になってから仲良くなったが、付き合う気配もなく、しかしシンプルに超仲良しであった
〜前提おわり〜


【どこ行く編】

「ババアの店行かね?」
「お好み焼き屋さんでしょ」
「だからババアの店じゃねえかよ」
「どうしよっかな」

なまえは悩む。通称ババアの店こと、お好み焼き屋さん。このお店は学校近くにあり、気の強いマダムが店主で、値段の割に美味しい学生さん向け。
ここへ週2で通っているから、飽きたと言えば飽きている。しかし他に行くべきお店も無い。

「なんかさあ」
「何だよ」

ディ・ロイはなまえの前の席に勝手に腰掛ける。

「ちょっと飽きた。お好み焼き」
「うわ、やっぱり?」
「え、ロイくんも?」
「流石になァ。でも他に良い店無えじゃん」
「ね。駅のロッテリアもマックも混みすぎだし」
「マジでな」
「学校も別に残っててもさあ」
「つまんねー」

顔を見合わせて「どうする?」と作戦会議。
ディ・ロイは薄い唇をひん曲げて考える。超、考える。

「…あ、分かった」
「なあに?」

ディ・ロイは天啓でも受けたような、晴々しい顔をしていた。

「あのさァ、俺ン家で良くね?」
「え」
「ゲームあるし、テキトーに遊べんじゃん」
「いいけどさ、ひとついい?」
「何だよ。言ってみ」
「ロイくんの家、今日お母さんとか居る?」
「居ねー。仕事してんだよ」
「え、じゃあやめとく」
「は?何でだよ。親居ねー方が騒げんじゃん」
「私、女の子なんだけど」

ここでディ・ロイはハッとした。
確かに。確かにコイツ女だった。忘れてはいないけれど、忘れてた。
2人で家に行くだなんて、側から見たら危ねえ関係にも見えるんだな。

「…高校生、男女、密室。何も起きねえわけが無えって話か…」
「起きないけどね」
「あ。もしかして俺、逆になんかした方が良い?」
「いや、行かないから」
「は?じゃお前ん家な」
「え?やだよ」
「は?なんで」
「部屋片付けてないから」
「大丈夫だって。お前、部屋綺麗そうなイメージ元から無えから」
「うっわ、サイテー。失礼すぎ」
「今更かよ」

ギャハギャハ笑うディ・ロイは、なまえの鞄を勝手に持ち上げる。

「俺決めた。お前ン家な!」
「え!やだ!ねー、じゃあ良いよ!お好み焼き屋さんで!」
「無理。飽きた」
「てか鞄返してよ!」
「返して欲しけりゃお前ン家な」
「やだ!無理!」

じゃれ合う仔犬同志のよう、縺れるように走って、2人は廊下に転び出る。
すれ違う生徒たちの驚いたような顔や、羨望の眼差し、怪訝そうな表情は目にも入らない。
なまえとディ・ロイはすっかり2人きりの世界で、仲良く言い合っているのでしたとさ。ちゃんちゃん。

〜結局、駅のロッテリアでベラベラ喋ったそうです〜



【プリクラ編】

なまえはディ・ロイの袖を引っ張った。

「ねえ、プリクラ撮ろうよ」
「仕方ねえな」

口調は渋々でも、態度は素直。ディ・ロイは前髪をちょこちょこ弄りながら、抵抗する事なくプリクラコーナーへと入ってゆく。

「ココ男だけじゃ入れねえんだよ」
「だろうね」
「やっぱ男が来るとカッケェから、お前ら女子はプリクラどころじゃない感じかァ?」
「ううん。洋楽のフェス会場にアニヲタがペンライト持って入ってくる感じ」
「場違いかよ」
「そういうことだよ」

厳密には違うけれど、そんなところらしい。
なまえは「これ!」とひとつの機械を選ぶ。

「コレ写り良いのか?」
「うん。目が大きくなるよ」
「鼻の穴は?」
「大きくならないよ」
「つまんねえ」
「つまんなくていいの」

2人が200円ずつお金を入れると、モード選択の画面になる。肌の白さ、目の大きさ、顔のタイプがここで変えられる。

「ウッソ、詐欺じゃねえかよ」
「うるさいなあ」
「だって顔のタイプ変わるんだろォ?」
「いいじゃん。それにね、プリクラの写りが私たちの本当の顔なんだよ」
「え?何?もっかい」
「ちゃんと聞いててよ」

肌はオススメの白さ。目もオススメの大きさ。顔のタイプはオルチャンスタイル。シンプルモードで撮影。
素早く選んでゆくなまえの手を見て、ディ・ロイは感心したように口笛を吹く。

「慣れてンなァ」
「まあね」
「ここまで来たら俺も可愛くなるっきゃねェよな…」
「ここで前髪整えたほうがいいよ」
「オッス」

撮影ブースに入れば、2人してカメラを覗き込んで前髪の手直し。間も無く始まる撮影用のBGMが大音量で流れる。

「うっわ、緊張してきた」
「ちょっと分かる」

陽気なアナウンスの指示に従って、指ハートやら、ギャルピース、ぶりっ子ポーズで撮影すれば、あっという間に時間は過ぎる。

「え、もう終わり!?早くね!?」
「こんなもんだよ。落書きしよ」
「まだあんの?」
「ロイくん、こっち!」

急足で落書きブースに移動すれば、すっかり目の大きくなった2人の写真がズラリ。

「このロイくん可愛い」
「えー、まじー?盛れたー?」
「ねえ、変な喋り方しないでよ」
「は?お前のマネしてんだけど」
「私そんなんじゃないし」
「私ぃー、そんなんじゃないしぃー」
「ちょっと!」
「いてぇ!叩くな」

ギャアギャア言い合っても、お互い落書きの手は止まらない。

「あ、お前に鼻毛生やすわ」
「やめてよ」
「大丈夫だって。俺のは眉毛繋げっから」
「ほんとやめて」
「ウンコ書いていい?」
「怒るよ」

側から見れば仲良しのカップル。しかし2人は友達。甘い雰囲気など微塵も起こらない。
印刷されたプリクラを見れば、「おおー」と似たような声が出る。

「このロイくん可愛いじゃん」
「まじ?俺、明日から女子になっかな」
「じゃスカート履いてきなよ」
「俺の美脚見せつけてやるよ」
「見たくないな」
「おい」
「ねー、私これ可愛くない?」
「俺の次だな」
「どんだけ?」
 
記念のプリクラは大切にとっておきたいのだけれど…。

「明日このプリクラ、グリムジョーに分けてやるわ」
「なんで?」
「え、可愛い俺を見て欲しくて?」
「無駄に乙女じゃん…」
「なんか、俺ちっとキメェな…」
「うん…」
「そこは否定しろよ」
「や、無理でしょ」
「冷てえ女」

罵り合うくせに、何故かいつもつるんでる。
次の日、2人してプリクラをスマホに挟んでたのは、また別なお話。


【グループワーク編】

「あ、ロイくん同じ班だ」
「なまえかよ。アガるわ」

出席番号順で、適当に割り振られた班ごとにグループ学習を行う事になったなまえたち。班ごとにテーマを決めて、地域の歴史について調べるのだ。

「地域の歴史だってよ。つまり何?」
「分かんない」
「もしかしてアレか?この学校卒業した藍染センパイがホワイト企業に居たのに、勝手にそっから独立したから地域の半グレ共巻き込んで抗争ンなった話とか?」
「それはローカルすぎでしょ」
「じゃアレか?ユーハバッハのオッサンが、昔山本のジジイに半殺しにされた挙句、家焼き討ちされた話か?」
「怖すぎ。調べるならもっと平和なやつでしょ」
「他に何も無くね?この町」
「あるよ。なんか、色々…」
「あ思い出したわ」
「何?」
「や、ユーハバッハのオッサン、最近逆襲したらしくてよ」
「あ、その話?」
「なんか山本のジジイの家の床下にスゲー地下施設作ったんだとよ」
「帝愛グループみたい」
「んでよく分かんねえけど、なんか上手く奇襲してボコボコにし返したらしい」
「物騒だね」
「コレ纏めりゃ良くね?」
「地域っていうか、個人の話でしょ」
「ダメか?」
「ダメじゃない?」

なまえとディ・ロイは、同じ班の真面目そうな男の子の顔色を窺った。
彼は、静かに首を振った。

「やっぱりね」
「ダメかー」

結局真面目そうな男の子によって、地域の電車の変遷について調べる事になったそうな。

(おしまい)

楽しくて書く手が止まりません


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