※ノイトラ様に相手にされたいけど、相手にされたくない。 この願いを同時に叶える夢小説を書きました。 ノイトラ夢学パロです。 とあるクラスには同じ名前の女の子が2人居る。 片方は可愛くて、もう片方はオタクで見た目はちょっと…。 2人とも同じクラスのノイトラくんを好きになってしまい、始まるのは恋愛格差地獄。 好きな方に自己投影して下さい。(オタク夢主側目線でしか話は進行しませんが…) また、名前のないモブが大量に出てきます。 何でも許せる方のみお読みくださいませ。


これは、とある高校のとある教室のお話。

真四角の教室には、机が等間隔に並べられている。入学式を終えた生徒たちは、ピカピカの制服に身を包んで、ドギマギする視線を彼方此方に飛ばしていた。
担任の熱血教師は、白いワイシャツの袖を捲って、黒板に「友達」と大きく書いた。

「まずは、入学おめでとう」

白い歯を見せて、彼は笑った。人の良さそうな笑顔だけれど、どこか作り物めいている。白すぎる歯のせいかも知れない。
しかし、教室をぐるりと見渡す瞳は、恐ろしい迄に澄んだ輝きを放っていた。

「受験を経て、君達は晴れて高校生になった訳だ。どうだ、少しは大人になった気分だろう?」

肯定とも取れる、恥じらうような笑い声が上がった。

「先生は、皆にたくさん勉強して貰いたいと思う」

やや砕けた雰囲気となった教室は、ここで「ええーっ」と、学生らしく、可愛げタップリにどよめいた。そして、教室の後ろの方に座る黒髪の男の子は、隣の青い髪の男の子と一緒にヤジを飛ばすよう声を上げた。

「はァ?無理!」
「おっ、随分と元気だな。えーと、お前はノイトラだな」
「ウス」
「隣が…また元気が良さそうだな。グリムジョーか」
「男に名前呼ばれても、嬉しくねェな」

先生は答えに困って苦笑したし、教室も、この2人の口の達者なことに驚き目を見開きながら、苦笑した。
そして、同時に憧れるような視線を彼らに向けた。

「まあ、話を本題に戻そう。えー、勉強というのは、多分さっきノイトラとグリムジョーの思ったような、授業だとか、宿題も含まれている」

熱い瞳が、生徒1人1人の顔をよく見詰めた。その表情は、痛い程に真摯であった。

「だが、本当の勉強というのは、学問だけじゃない。何かを見て良いなと思うことも、それを見て真似しようとするのも、ひとつの勉強だと先生は思う。
要は自分を高めようとすれば、何事も勉強だ。教科書もノートも要らない学びがある。それは、君たちにとって、もしかしたら、勉強よりも大切かもしれない」

教室は先程と打って変わって、シンと静まり返った。誰もが先生の次の言葉を待って、膝に手を当てて背筋を伸ばしている。

「とどのつまり、人間関係というのは、最も学びに繋がると思うんだな。先生は」

ここでやっと、先生はニコッと笑った。俳優のような、綺麗な笑顔であった。
生徒たちは、先生を見てホッとしたように微笑んだ。まるで青い林檎が、仄かに赤く色付いたような、初々しい笑みだ。

「友達。これは大切だ。まずは誰とでも仲良くしなければ、友達というのは作れない」

バン、と黒板は叩かれた。その衝撃でチョークの粉が、煙のようにふわりと浮かび上がった。

「という訳で、このクラスは全員、下の名前で呼び合う事にしよう。良いか、渾名はダメだ。先生は昔、ハンサムという渾名を付けられた」

グリムジョーの隣に座っていた前髪の長い男の子は、気怠げに机に伏したまま、「自慢かよォッ」とヤジを飛ばす。

「…君は、ディ・ロイか。なんだ、今年は元気な生徒が多いな。そう、ハンサムは自慢だ」
「自慢要らねーッ」

教室の後ろの方、ちょっと悪そうな男の子達は顔を寄せ合って「俺もイケメンって渾名欲しいわ」なんてヘラヘラ笑っている。
先生は彼等を暖かい瞳で見詰めてから、ウンウン頷いた。

「だがな、ハンサムと呼ばれて嬉しかったのは最初だけだ。途中から、なんだか小っ恥ずかしくてな。馬鹿にされてると思った事もあるし、事実、小馬鹿にしてハンサムなんて呼ばれた時もあった」

だから、と先生は言葉を続ける。

「みんな、下の名前で呼び合う事。いいか?」

パラパラと拍手が起こり、先生は手元の名簿に視線を落とした。

「では、今から先生が1人ずつ名前を読み上げる。そしたら返事をしてくれ」

ズラリと並ぶ名簿には、同じ名前が2つあった。先生は素直に「ああ」と声を漏らして、2人の生徒を見遣った。

「同じ名前が、2人いるなあ。こっちのなまえに、後ろの方のなまえ」

視線を向けられたのは、まず前の方の席に座っていたなまえちゃん。パッと見ただけで、おやっと思うような可愛らしさがある。表情だって、ニコニコしていて愛嬌があった。
先生に名前を呼ばれてから、髪を揺らしてコクンと頷く姿すら、目を引いて離さないような、不思議な魅力があった。

もう1人は、後ろの方の席のなまえさん。まるで近くに座るノイトラやグリムジョー達に遠慮するよう、背中を丸めていた。
名前を呼ばれたって、チラリと顔を上げて先生の顔を盗み見て、軽い会釈をするばかり。真一文字に結ばれた唇は、綻びない。
一言で彼女を表すとすれば、暗い感じ。これに尽きた。

「名前も同じだし、髪型も同じだな。君達は、似ているようで、似ていないような…」

先生は、前の方に座る可愛らしいなまえちゃんだけに視線を向けて、語りかけた。これが全てを物語っていた。
同時に後ろの方のなまえさんも、話だけは聞いていた。ただ、視線はずっと手元。
だから、前に座っている方のなまえちゃんだけが、先生から特別に視線を注がれているなんて気付きもしなかった。

更には、言葉を額面通り受け取って、私はあっちのなまえちゃんと似ているのか、とハッとした。当然、都合の悪い後半部分、『似ていないような』は聞き飛ばしている。

「まあ、みんなは2人を混同しないように、上手くやってくれ。その、ちゃん付けか、さん付けとか…。区別を頼むぞ」

答えは殆ど決まっていた。前の席の可愛らしいなまえは、ちゃん付け。
近寄り難い、暗い方のなまえはさん付けだなと、教室中が暗黙のうちに了解した。
そして、先生は宣言通り1人ずつ名前を読み上げた。

紛らわしいけれど、ここから先は、この教室と同じように、可愛い方をなまえちゃん。暗い方をなまえさんと呼ぶことにしよう。

自分の名前が呼ばれるのを待つ間、なまえさんは、前の方に座って、近くのお友達と笑い合うなまえちゃんをじいっと見詰めた。

鏡だと思った。
あの子は私と似ているのか。私ってば、あんなに可愛く見えていたのか。なまえさんはウットリとして瞳を細めた。

確かに2人は似ていた。
というのは、髪型であったり、色の白さであったり、身長や、体つきが似ているだけだった。残念ながら、顔なんて全くの別物であった。髪の毛だって、似ているのは長さだけ。髪質一つすら、似ているとは言い難い。
しかし、遠目で見れば。後ろ姿だけなら。似ていると言えるかも知れない。そんな程度である。

だが、先生の言う『似ている』という魔法の一言で、なまえさんは自尊心をでっぷりと膨らませた。

そんな心持ちだからこそ、隣で「アレ、なまえっつーんだ」「中学の頃から有名だろ。カワイーって」「マジこのクラスで良かった」と囁き合うノイトラ、グリムジョー、ディ・ロイの声を聞いて、胸がドキドキした。

そんな人と、似ているだなんて。

何もしていない癖に、なまえさんは「これが、高校デビューか」と静かに高揚した。
そんな訳は無かった。
なまえさんは相変わらず手元しか見ていない。だから、ノイトラ達がコチラ側を一切気にしていない事にも、気付かない。
何も見ずして、勝手に頭の中で現実を塗り替えていった。

あの男の子達は、可愛らしい自分の事も、気にかけているのではないか、と。
こう考えた。

彼等が前の席のなまえちゃんを褒める度、同じくらい自分も褒められる心地がした。
だって、あの子と私は似ているから。
彼等は、面識の無い自分をチラチラ気にしながら、きっと会話を続けているのだろう。
彼女は机の木目だけを見詰めながら、こんな勘違いを起こした。

先生に呼ばれて返事をした時。
なまえさんは、自分の名前がひどく誇らしいなと、そう思ったのだ。





「では、委員会を決めようか」

入学式の翌日であった。
担任の先生は、昨日と同じように白い歯を見せてニコッと笑った。彼はくるりと生徒に背を向けて、黒板に向かってチョークを取った。運営委員、放送委員、情報委員、図書委員…。
生徒は必ず、委員会に所属しなければならなかった。

「さあ、皆どうだ?やりたいものは無いかもしれないが…」

先生は「友達同士、話し合って決めても良いぞ」と言って、黒板の横に置いてある丸椅子に腰掛けた。
この一言を合図に、教室の皆は「どうする?」と席の前後や、仲良し同士が集まって話し合った。その手には委員会の活動内容が細かく書かれたプリントが握られている。
なまえさんはこんな時、集まる友達も居らず、手元のプリント用紙に視線を落とした。
そして、相変わらず聞こえて来る声に耳を傾けた。

「俺、やりたいの無え」
「運営委員ってアレだろ、生徒会の犬みてえなヤツ。絶対ヤダ」
「言い方ヤバ。俺、保健委員やって保健室のセンセーと仲良くなりてえな」
「ロイ、保健の先生ジジイだった」
「マジ?無し!」

なまえさんの近くで、彼等はこう話していた。
こんな会話を聞くうちに、気付けばなまえさんは勝手に心の中で返事をしていた。

「俺、やりたいの無え」
『ノイトラくん、分かるなあ。私もやりたい委員会なんて無いよ。困るよね』

「運営委員ってアレだろ、生徒会の犬みてえなヤツ。絶対ヤダ」
『グリムジョーくんったら、どうしたらそんな言い方が出来るの?意外と面白いよね』

「言い方ヤバ。俺、保健委員やって保健室のセンセーと仲良くなりてえな」
『やだ、ロイくんってば!私、保健委員なんて興味ないかも』

「ロイ、保険の先生ジジイだった」
「マジ?無し!」
『ノイトラくん、なんで知ってるの?しかも、ディ・ロイくんもすぐ興味無くすし。…なんか、男の子だよね。3人とも』

現実から離れた世界で、なまえさんは3人から「お前、どれにするンだよ」と微笑まれた。
気になる?仕方ないなあ。えっと、えっと、私はねえ…。

ふわりふわりと天に昇る風船のよう、妄想は現実から遠のいた。
頭の中で、ああでもない、こうでもないと考える内に、教室の喧騒は一段と大きくなった。
誰かの大きな笑い声で、なまえさんは夢から覚めたようにハッとして、背筋を正した。

いけない、いけない。
こんな風に、適当に委員会を決めてはいけない。なまえさんは真剣に各委員会の活動内容を読もうとした。彼女がゆっくりと鼻息を吐く度、油でギラギラ光る小鼻が歪に膨らんだ。
そして、やりたい委員会について考えれば考える程、思考は横にそれた。

私とよく似た、同じ名前の可愛いあの子。
あの子は何にするんだろう。
こんな考えがなまえさんの脳内を支配した。彼女の視線は手元のプリントから、前の方の席で楽しげに笑うあの子へと移った。暈けてしまったカメラのピントを合わせるように、視線をあの子だけにギュウっと絞った。

「なまえちゃん、どうする?」
「うーん、図書委員…かなあ?」
「あー、やってそう!」
「ほんと?」

教室の前の方に座るなまえちゃんは、隣の席の女の子と話していた。彼女もまた、なまえちゃんに劣らず、明るくて元気な可愛らしい女の子であった。
まるで小鳥同士が囀る様な、可愛らしい2人の姿は見ていて飽きない。
なまえさんも彼女達の可愛らしさにウットリしながら、「図書委員、あの2人と一緒なら良いかも」と考えた。まだ一言も喋った事がないクラスメイトに対して、少なからず親近感を抱いていた。
あの2人は可愛いし、このクラスで唯一、自分と釣り合うレベルかも知れないとなまえさんは思ったのであった。

「でも、当番とかあるよね?」
「そうそう。地味に面倒だよね」
「んー、別なやつにしようかな」

また会話を盗み聞きして、考えは簡単に翻った。図書委員じゃなくても良いかとも思える。
しかし、では何にしようと思うと頭が真っ白になった。どの委員会が良いかなんて、自分1人では決められなかった。

強いて言えば、ゴミ拾いはしたくない。人前には立ちたくない。何かと駆り出される事の多い委員会はイヤ。
考えれば考える程、図書委員会は魅力的に思えた。
あの2人と一緒になれずとも、図書委員にしようかなとなまえさんは思った。

「さて。皆、どうだ?決まったか?」

先生の一言で、教室はシンと静まり返った。自分の席を離れていた子達は、「はあい」とお返事をして、素早く自分の席へと戻る。

「では、今から先生が一つずつ委員会の名前を読み上げる。やりたい!と思ったら手を挙げてくれ。
定員はそれぞれ違うから…まあ人数がオーバーしたら、話し合いで決めよう」

教室は気の抜けたような返事をすると、先生はニコッと笑って黒板の端から委員会を決め始めた。

「では、まず運営委員やりたい人!」

ポツポツと手が挙がる。定員以内に収まったので、先生は彼等の名前を黒板に書き記した。
これを繰り返すうちに、図書委員の番になった。すると、クラスの3割程がワッと手を挙げた。
その中には、あの可愛らしいなまえちゃんの小さな手も混じっていた。

「おっ、随分多いな。じゃあここは平等に、先生とジャンケンで勝った人だけを図書委員にしようか」

挙げられた手のひらは、すぐに硬く握られた。

「いくぞ、最初はグー!ジャンケンポン!」
「勝った!」
「あーっ、負けた!」

教室は笑いと、残念そうな悲鳴に包まれた。なまえさんは残念ながら、初戦で負けてしまった。
あの子。あの子はどうなったんだろう!
祈るような気持ちで、なまえさんは前の席の可愛らしいなまえちゃんを見遣った。

「負けた人は、そのまま手を下ろすように」

先生がそう言うと、あの子はなまえさんと同じように手を下ろした。
良かった!何故か、こう安堵していた。
彼女と委員会が同じになったとて、仲良くなれるとは限らないのに。
しかしなまえさんは、根拠の無い無い確信を胸の内に得ていた。可愛くて似ている私たちだもの、きっとすぐ仲良くなれるだろうと。

委員会は、次々とこのように決められた。
運悪く、なまえさんの希望した委員会は全て定員オーバー。最後の最後までジャンケンに負け続け、あぶれてしまった。
同じようにあぶれたのは、4人。大人しそうな男子が1人と、すらりと背の高くて細身なショートカットの女の子が1人。なまえさんと同じよう気の弱そうな女の子がもう1人。
この4人は、委員会が決まらないので、黒板の前に立たされていた。教室中はザワザワとお喋りに夢中になっていたけれど、視線は時折、前に立つ4人注がれていた。

「出来るだけ、1人ずつ希望を通せるようにしたいが…どうする?気になる委員会はあるか?」

先生がこう問うと、男の子はスッと手を挙げた。

「僕、運営委員に入っても良いですよ。もし他の人が入りたいなら、別に他のでも良いし」

彼はハキハキと言った。
先生は、あの瞳を大きく見開いて「おお!」と感動したような声を上げた。

「偉いぞ。他のみんなはどうだ?運営委員、やりたいか?」

全員が首を横に振った。先生は、その男の子名前を運営委員の所に書き記した。彼は席に着くと、近くの席の男の子に「やるじゃん」と声を掛けられている。
残されたのは、女子3人。
なまえさんも、そうだと勇気を出した。

「あの、情報委員が良いです」
「あ!ウチもそれやりたい!」

なまえさんの声に少し被せるよう、ショートカットの女の子は言った。
よく通る声は、教室によく響いた。

「…おっ、被ったな」

先生は苦笑いしてなまえさんと、隣の女の子を交互に見詰めた。

なまえさんはギクリとして、息を詰まらせた。
なんで、そんな事を言うんだろう。隣のショートカットの女の子が、どうしようもなく憎らしくなってしまった。
私の方が先に言ったんだから、黙っててよ。出来れば情報委員会に入っちゃって、サッサと席に着きたいのに。
言いたい事を頭の中で唱えていると、教室中の視線が、自分達に集まっている事が分かった。恥ずかしさと焦りで顔は赤く曇り、なまえさんは重力に従うよう、ゆっくりと俯いた。
隣の女の子の細くて長い足が目に入った。きっと、運動部にでも入っているのだろう。引き締まった脹脛には、無駄の無いしなやかな筋肉が張り付いていた。

「情報委員は、残りの枠が1人か…」

この時、先生は平等にジャンケンと言わなかった。
そしてショートカットの子を見て「さっきも、惜しいところで負けちゃったもんな」と労りの声をかけた。その子は可愛らしく頷いた。
先生は「よし!」と声を張り上げてから、なまえさんにだけ、こう語りかけた。

「なまえさんがもし、消去法で情報委員が良いと言うのなら。どうか譲ってくれないか?さっきから、あと少しの所で負けてて…ちょっと、なあ?」

ショートカットの子に悪気は無かった。
ただなまえさんと同じ気持ちだったから、つい口に出しただけだった。その結果も、相手の気持ちも考えていないだけだった。
先生は、何故かそんな彼女を優遇した。
教室中の視線が、前に立たされた3人だけでなく、なまえさんたった1人に集まるのが分かった。
ひどいプレッシャーがかけられた気がして、なまえさんは頷いた。
頷くしかなかった。
それを見た先生は「偉いぞ!」となまえさんを褒め称えた。だが、それだけだった。ショートカットの子とは違って、労りの言葉もない。たった一言、目も合わせずに「偉いぞ!」。
それだけであった。

ついに委員会決めは終わった。
ノイトラ、グリムジョー、ディ・ロイは3人で放送委員会に決まって、3人でボソボソと「曲、何流す?」と話し合っては低い笑い声を上げた。
あの可愛らしいなまえちゃんは、保健委員会に決まっていた。

そして、なまえさんは厄介な環境・美化委員会を押し付けられてしまった。
一緒に前に立たされていた大人しそうな女の子も、同じであった。
これは頻繁にゴミ拾いをしなければいけない委員会で、1番人気が無かった。そんな委員会に、なまえさんはあてがわれてしまったのだ。

しばらくして、休み時間を告げる鐘が鳴った。
なまえさんの席の前には、同じ委員会を押し付けられた、あの女の子が立っていた。
その子を見上げて、冴えないオタクっぽいなと、なまえさんは思った。

実は、なまえさんだってオタクであった。キャラクターの缶バッチを鞄に付けていたし、使っているボールペンだってキャラクター物だ。最近ガチャガチャで手に入れたアニメキャラのストラップをあちこちにぶら下げていたし、ノートの隅っこには落書きだらけ。
彼女は、自分は見た目にも気を使えるオタクだと自負していた。しかも、あの可愛いなまえさんとソックリな美少女なんだものと、すっかり得意気であった。
だから、ロクに寝癖も直さず割れた前髪にも、跳ねているパサパサした毛先だって、無造作ヘアで可愛らしいとさえ思っていた。
だから、目の前の子を見下していた。
なんか可愛くないな、と。

「ねえ、なまえさんだよね」
「うん」

彼女はこう言うと、モジモジと躊躇ってから、突然なまえさんの手を握った。その手は妙に熱くて、汗でじっとりと湿っていた。
その思い掛けない行動と、気持ち悪い感触になまえさんは眉を顰めた。

「あのさ!なまえさんが鞄に付けてる缶バッチ、私も持ってる!」
「ほんと!?」

濡れた熱い手の不快感も忘れる程、なまえさんは嬉しくなってパッと顔を輝かせた。
こちらこそ、正真正銘似たもの同士の2人であった。当然のように意気投合してしまった。
2人は休み時間の僅か10分の間、ずうっと声高に「あのキャラが良い」「展開がすごい」と、とある人気漫画について喋り倒した。金切り声のようなキンキンに高い声を上げて、繰り返し「尊い」「尊い」と握り合った手を激しく振った。
またチャイムが鳴ると、その子は名残惜し気に「ああっ!もう!」と演技っぽく頭を振った。

「ねえ、お昼一緒に食べようよ」
「!うん、…」
「約束ね。また来る!」

本当は、嫌だった。
なまえさんは折角高校デビューを果たしたのだから、自分とソックリに可愛らしいなまえちゃんとお昼を食べたかった。
似ている可愛らしい者同士で仲良くなって、教室中から「あの2人って可愛いね」と囁かれたかったのだ。ついでに、「一緒にお昼食べようぜ」なんてカッコ良い男の子も寄ってきたりして。
なまえさんは、まるで漫画のような都合の良い妄想を張り巡らせていた。

でも、お昼くらいは話が合う子でも良いのかもしれない。そう思う事にした。
それにさっきの子は、私の引き立て役になってくれるかもしれないし。

現実を客観視する事も出来ないまま、なまえさんは打算的な自分に酔いしれて教科書を机から取り出した。

先生が来るまでの間、なまえさんは込み上げる笑いを押し殺そうとしていた。
きっと教室中は、私とあの子の仲良くする光景を見て「なまえさん、オタクなんだ。意外!」と思ったに違いない。
更には、「あんな冴えない子とも話してあげるなんて、なまえさんは優しい美少女だなあ」と思っただろうと、想像を張り巡らせた。
高揚した気分は隠せず、口角がニューッと上がり、表情はニヤニヤと歪められた。

勿論、なまえさんの中では、とても可愛らしい微笑を浮かべているつもりであった。

この一連の流れを横目で見ていた男の子が居た。ディ・ロイ・リンカーだ。
同じ横並びの列に座る、大人しそーなヤツらが喋り始めたと思ったら、アニメの話かよ。しかもギャーギャーうるせェし。こう思いながら話を聞いていた。
近くで金切り声を上げられると、結構キツいのだ。

「話し方、ヤバかったな」

堪らず本音をボソッと呟くと、ノイトラとグリムジョーは「ングッ」と変な声を出して、声を押し殺すように肩を小刻みに揺らして笑った。

「ロイ、言うなって」
「悪ィ」

俯いて顔を隠すノイトラ。
ディ・ロイも釣られてまた笑えてしまう。

「オイ、笑っちまっただろうが」
「だって、ヤバくね?」

クク、と喉の奥を鳴らして笑うグリムジョー。3人は横並びに俯いて笑っている。
別にオタクは悪くないし、アニメキャラに悶えるのも分かる。
ディ・ロイだってアニメは好きな方だ。可愛いなと思うキャラも居るし、カッケェなと憧れるキャラだって沢山居た。
ただ、大人しそうな奴が突然沸騰したように喚くと、コッチも吃驚してしまうのだ。
しかも彼女たちの交わす言葉が、聞き取れない程の捲し立てるような早口だった。それに、突然始まる似てもいないキャラクターの物真似だとか。尊いだとか、エモいの一本調子。取り憑かれたように、突然口調を変えてみたり。
これらはどうにも、聞くに堪えないものだった。
笑ってるのバレて無ェかなと、ディ・ロイはなまえさんの顔をチラリと見た。すると同じタイミングで、彼女はこちらをチラリと覗き見た。
ウワッ!と声を上げそうになるのを抑えて、ディ・ロイはグリンと顔を逸らした。

なまえさんは不自然に瞳を細めて、ほうれい線をクッキリ顔に刻んだ、不気味な笑みを浮かべていたからだ。

笑ってたの、バレたかも。ディ・ロイは恐ろしさに心臓をバクバクさせながら、ぎこちなく前を向き、正面の黒板を見据えた。
丁度現代国語の先生が教室に入ってきたタイミングであった。

「日直、号令」

こんなに先生の到着に救われた瞬間は無かった。ディ・ロイは珍しく、黒板と手元のノートだけを交互に見て授業を受け切った。
ぬうっと現れた幽霊に気付かぬフリをするのって、こんな感じかも。
彼女とあまり深く関わらないようにしようと、ディ・ロイは腹の底で決めた。





ジメジメと湿度の高い、曇りの日であった。歩く度にガサガサとビニール袋が鳴り、ぬるい風がなまえさんの割れた前髪を揺らした。

「あんまりゴミ落ちてないね」
「やる意味、ないよね」

初めてのゴミ拾い当番であった。
なまえさんは、お昼を一緒に食べているあの子と共に、放課後に高校の周りを一周してゴミ拾いをしていた。
その間はやはり、アニメや漫画の話ばかりしていた。やれ尊い、やれエモいと2人はすれ違う生徒の訝しげな視線にも気付かず金切り声を上げていた。
ふと話題が途切れれば、なまえさんはアニメの話ではなく、クラスメイトや先生の話題を振った。
ひとつ、期待していた事があったからだ。

『そういえばなまえさん達って、名前だけじゃなくて、顔も似てるよね』
お友達にこう褒められるのではないかと、ドキドキ胸を高鳴らせていたのだ。

しかし、いくらクラスメイトの話題を振っても、なまえさんが褒められることは無かった。むしろ、お友達はクラスメイトの話よりも、今ハマっているゲームについて話したいようだった。なまえさんがクラスメイトの話を振れば、退屈そうに相槌を打ち、「そういえばさ」とゲームの話題へと移る。

なまえさんはムッとした。可愛くないアンタと、可愛い私が仲良くしてあげてるのに。こう思って唇を曲げた。
お友達をチラチラと見遣れば、やけに長いスカート丈が目についた。ダサいなあと薄く笑ってしまった。
なまえさんは自分も同じくらいスカート丈が長かったけれど、これは“清楚で上品”だと思っていた。アンタとは訳が違うんだよと、なまえさんはお友達を小馬鹿にしている。

どちらも同じくらい、垢抜けていないというのに。

ロクに塵も入っていないゴミ袋を捨てて、職員室に報告をして、2人は教室へ戻る事にした。

「ねえねえ、帰りアニメイト寄らない?」
「あー、どうしよっかな」

なまえさんには、危惧していた事があった。クラスメイトに、本物のオタクだとバレたらどうしよう、と。
なまえさんの中で、自分の位置取りはこうだった。
美少女なのに、実はちょっぴりオタク。仲良くしている子とは、コッソリとオタクな話をするくらい。
こんな風に認識していた。

彼女はいつだって、歪んだ鏡の前に立っているようなものだった。都合の良いように物事を解釈し、思い込みの激しさで、自分を恐ろしく美しい人物に仕立て上げていた。

アニメイトなんかに寄って、それクラスメイトに見られてしまったら!なまえさんが本物のオタクだとバレてしまう。それはよろしくない。
要らぬ心配をしながら、なまえさんは「欲しいもの無いんだよね」と誤魔化しながら廊下を歩いた。
お友達はどうしてもアニメイトに一人で行きたくないようで「別に良くない?行こうよ」と食い下がっている。

「でもなあ」となまえさんが扉を開けた瞬間であった。
教室の中から、割れんばかりの大きな笑い声が聞こえた。驚いて声のする方を向くと、男の子と女の子が入り混ざって机を囲んで騒いでいるのが見えた。
下品だなとなまえさんは笑い声の主を軽蔑した。しかし、その喧騒の中の1人を見つけてハッとした。

ノイトラが居たのだ。

なまえさんは、ノイトラがちょっとだけ気になっていた。いいや、本当は好きだった。でも、好きと言える程彼と関わっていないから、心の中ですら好きとは言い難かった。
でも、教室に居る間は、ずうっとノイトラを意識していた。

何故なら、ノイトラの声がなまえさんの推しと似ていたからだ。勝手にノイトラと推しを重ねては、1人悶絶していたのだ。
ノノイトラは見た目もカッコいいし、声も推しと似てるし、背も高いし、大人っぽい仕草も素敵だし。
可愛くなった自分には、ノイトラこそが相応しいのではないか。こう思って気にかけていたのだ。

「オイ、男子はあっち行けよ。コレ女子にしか配んねえから」
「ロイがバカ上手ェからな」
「女子!マジ俺に惚れて良いから!これクレーンゲームで俺とったヤツだから!マジで!凄くね!?」

どうやらノイトラ達は、ゲームセンターのクレーンゲームで大勝ちしたようであった。それをドッサリと持ち帰り、教室に凱旋したらしい。
机の上は、スナック菓子からチョコレート菓子まで山盛りになっている。

荷物を纏めるフリをして、なまえさんはチラチラと横目で彼等の様子を窺った。
彼等は女の子にだけお菓子を渡しているようで、ディ・ロイはクラスメイトの可愛らしい女の子にデレデレしながら「俺カッコよくね?コレやるよ」と、胸を張っていた。
ノイトラは、近づいて来るクラスメイトの男の子を害虫でも払うように追い返している。グリムジョーは、お菓子の束を渡しやすいようにせっせと崩していた。

良いなあ。私もアレ、手渡されたい。
なまえさんはドキドキした。もしかしたら、憧れのノイトラと話せるチャンスかもしれない。
彼等に直接話しかける勇気は無かったけれど、いつも頭の中では彼等と仲良く会話していた。
いつしか願望はムクムクと膨れ上がり、いつかノイトラに「お前、結構可愛いよな」なんて微笑まれる日がきっと来ると、なまえさんは信じ切っていた。

だって私、可愛いもん。早く声を掛けてよ。ノイトラくんは可愛い女の子、好きなんじゃないの?

気付けば願望は、傲慢な要求にすり替わっていた。

「ねえ、帰ろうよ」

なまえさんがあまりにゆっくり支度をするものだから、お友達はイライラしたように机の前に立っていた。

「ごめん。帰ろっか」
「うん」

側から見れば冴えない女の子2人が、ノイトラ達の横を通り抜けて帰る所であった。
トボトボ歩く2人を見て、ノイトラはお菓子の山を勝手に崩した。

「オイ!」
「っ、ひぇ…!」
「帰るよな?」
「あ、…あの、…まあ、ハイ」

なまえさんは驚いた。
あのノイトラに声を掛けられたのだ。上擦った変な声が出てしまった事にも気付かず、ノイトラから向けられた視線を受けて、なまえさんは固まった。
不自然に肩を吊り上げて、首をギュッと窄めて、両手を胸の前で握り締めた。まるでボクサーの戦闘態勢みたいな、それでもへっぴり腰の、どうにも不恰好な姿勢で、ノイトラの次の言葉を待った。

「コレ、やるよ」
「へ?……あっ、ありが、…と」

ホラ、とノイトラはお菓子をなまえさんに手渡した。
なまえさんはジリジリと摺り足でノイトラに近寄り、手を伸ばしたり引っ込めたりしながら、震える手でお菓子を受け取った。
挙動不審にも思えるなまえさんの動きを見ても、ノイトラは表情一つ変えなかった。なまえさんは、緊張に伏せていた瞳を頑張って見開いた。すると、端正な顔がキリリと引き締まってこちらを見ていた。意志の強そうな切長の瞳から、目が離せなくなってしまった。
ノイトラの鋭い視線は、なまえさんの心を簡単に射抜いた。

「そっちの友達の分もやる」
「ヒッ…ぅ、ありっ…がと、う…」

ノイトラは、また別なお菓子をなまえさんに手渡した。ほんの少しだけ、ノイトラの冷たい手が自身の指先に触れて、なまえさんは口から心臓が飛び出しそうになった。

「じゃな」
「ぇあっ…は、……また…」

黒い髪の毛を靡かせて、ノイトラはくるりと背を向けた。そのほんの少しの仕草すら、アニメのワンシーンみたいにカッコよく見えた。

どうしよう、好きだ。

カッコいい男の子に優しくされたのは、これが初めてだった。
話しかけられた。
お菓子をくれた。
少しだけ、手が触れた。
触れた所から、色が変わってしまうんじゃないかと思うくらい、痺れにも似た熱が波のように迫ってくる。

なまえさんが男の子を好きになる理由が揃ってしまった。

しかも、なまえさんは自分だけが選ばれたと思った。
ノイトラが声を掛けたのは、お友達ではなくなまえさん。お菓子を手渡したのも、お友達ではなくなまえさんであった。
ノイトラくんは、あの垢抜けないお友達じゃなくて、可愛い私を選んだんだ!
そう確信すると、全身の血が沸騰しそうな気がした。

あの子じゃなくて、私。

これを頭の中で反芻するうちに、なまえさんの中で現実は膨れ上がり、妄想との境目を失った。

ノイトラくんは、私の事が好きだから声を掛けてくれたんだ。
わざわざ、私に声を掛けたんだ。

宣言通り女の子にお菓子を渡しただけのノイトラの行動には、なまえさんの願望が映されてしまった。
その日の帰り道、なまえさんはアニメイトに寄る事にした。ノイトラくんはもう自分に惚れているはず。それなら、私がオタクってバレても好きで居てくれるでしょ。

ねえ、そうでしょ?ノイトラくん。





「あー、マジ彼女欲しい」

ノイトラは、椅子をギィギィ引きながらこう言った。
グリムジョーを挟んで、ディ・ロイがヘラヘラ笑ってノイトラを煽る。

「無理だろ」
「はっ倒すぞ」

怒ったような顔でノイトラが中指をビッと立てると、ディ・ロイはゲラゲラ声を上げて笑う。馬鹿みたいな大声は、更なる笑いを誘った。
下らねえと思っていたはずのグリムジョーも、口の端を歪めて笑った。

「お前、どんなのが趣味だよ」
「俺はなァ…」

グリムジョーがこう問うと、ノイトラは瞳を伏せて考えた。
なまえさんは、手元のラノベを読むフリをして、じいっと聞き耳を立てていた。
すると、彼女の前を女の子が通り抜けた。短いスカートが、チラチラ翻ったのを確かに見た。

「何?ノイトラ彼女欲しいの?」
「クッソ欲しいな。あ、でもお前じゃねえから安心しとけよ」
「うわっ、サイテーじゃん!」

ノイトラの前には、バレー部に入っているクラスメイトの女の子が立っていた。スラリと背が高くて、髪が短くて。スカートだって、うんと短くしている。
彼女はなまえさんから情報委員の座を奪ったあの子であった。先生に優遇された美人な女の子である。

なまえさんは、胸の内にフツフツと嫉妬の炎を滾らせて、横目に彼女を睨んだ。
どうせ、男好きの癖に。
恥じらいも見せず、男の子と会話できる女の子は全員、なまえさんから見れば“男好き”だった。
しかも、それは軽蔑の対象となり得た。

だって、自分が出来ない事を平然とやっている人なんて、憎たらしいに決まってる。こうやってクラスメイトを見下して、自分の方が上だと思って、殻に閉じこもるしか出来なかった。
なまえさんには、それしか手段が無かった。

ノイトラは面倒臭そうにその子を追っ払い、教室の前の方をじいっと見た。
好きじゃない女の子に恋の話を漏らすと面倒だからだ。中学時代に色々とやらかして、ノイトラは成長していたのだ。

そんなノイトラの心中も知らず、なまえさんは、薄く笑った。
ざまあみろ。男好きだから、ノイトラに追っ払われているじゃないか。やっぱり、私みたいに慎み深くないと嫌われるんだよね。こうして心の中でぺろりと舌を出した。
また聞き耳を立てて、なまえさんは読んでもいない本のページを捲る。

「俺ァ、アレだ。清楚系が良い」
「うわ!ノイトラがそう言うとキモい。キツい!」

夢見がちなノイトラの理想は、ディ・ロイに貶されてしまった。
ノイトラはムッとして席を立ち、ディ・ロイの肩を掴んでガクガク揺さぶった。

「オメェも前、坂道系が良いっつってただろうが!」
「は!?俺は良いンだよ!坂道系、スッゲェ可愛いじゃんかよォ!」
「じゃア俺だって、清楚系好きだって良いだろうが!」
「無理!キショい!」

ノイトラとディ・ロイがギャアギャア喚く間、グリムジョーはポツリと「確かにキツい」と漏らした。
一通り騒いで落ち着いた2人は、肩で息をしながら席に戻って、また仲良く話を続けた。

「俺ァ…なんかこォ、癒されてェんだよ。分かるか?」
「知らねえし」
「は?知っとけよ」

ノイトラはそう言って、前の方の席に座る可愛らしいなまえちゃんを見詰めた。
ディ・ロイもグリムジョーも、分かりやすいノイトラという男を見て、ニヤニヤ笑った。

これを聞いて、なまえさんは手汗で本を湿らせた。
清楚系。癒されたい。
それって、つまり。
喉がカラカラに渇いた。唾をゴクリと飲み下しても、喉のヒリヒリとした渇きは癒えなかった。

ノイトラの理想のタイプって、やはり自分ではあるまいか。

こう思ったら、居ても立っても居られなくなった。心臓はドッ、ドッと跳ねて、髪の毛の生え際から、むわっと汗が吹き出した。上履きの中でキュッと爪先を丸めて、なまえさんは深呼吸を繰り返した。

さっきの男好きなクラスメイトに比べたら、私は大人しいし、スカートだって長い。
自分ら真面目な方だと自負があったし、人を苛立たせるような事もしない。
清楚で癒し系。条件は満たしていると思った。もしかして、自分への遠回しな告白ではないだろうか。
だとしたら、この間お菓子をくれたのも、やっぱり…。
なまえさんはチラリとノイトラの横顔を盗み見て、胸をドキドキさせた。

残念だけれど、これはなまえさんではなく、可愛らしいなまえちゃんへの遠回しな告白であった。

条件だけ書き出せば、確かになまえさんにも当てはまる様に思えた。
だが実際のところ、なまえさんは真面目というか、規則通りにしか動けないだけだった。
ダメと言われたら、疑問も持たずに「ハイ」と頷く。スカートが長いのも、上手くスカートを折り込むとか、そういったアレンジが出来ないだけ。
人を苛立たせる事が無いのではなく、そもそも、そこまで他人と関わっていないからだ。
出来ないと、しないの差は大きかった。

ノイトラは、まさか近くで本を読む女の子から好意を寄せられているなんて思わなかった。
前の方に座って、お友達と楽しそうに話している可愛らしいなまえちゃんだけをじいっと見詰めた。
あのかわい子ちゃんを彼女にしてェなと、心の底から思っていた。
ノイトラの視界には、間違えてもなまえさんなんて入っちゃいなかった。

同じ名前であっても。
同じ教室に居たとしても。
2人の立ち位置は、天と地のように掛け離れていた。

(つづく)


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