「さて、優雅な女子会といきましょうか」
「はい、シャルロッテさん」

なまえとシャルロッテは、薔薇の香り漂う紅茶を飲んで微笑みを交わした。
シャルロッテの自室はまるでベルサイユ宮殿。美しくて煌びやかで、至る所に薔薇とリボンとレースがあしらわれている。
天井から吊るされたシャンデリアは淡く光り、2人の楽しいお茶会を見下ろしている。

「最近、どう?任務もロクに任されてなくて暇してるって言ってたわよね」
「もう、ずっと任務がなくて辛いって言ってるじゃないですか。…変わりはありません」
「あら、そうだったわね。なまえの斬魄刀ってカッターみたいに薄いし細いし、仕方ないわね」
「ひどい、もう少し刃渡りありますよぉ」
「替え刃とか、コンビニで売ってそうね」
「売ってないですっ」
「現世で持ち歩いても、銃刀法違反にならなそうねー」
「なります!」

なまえは可愛らしく拗ねて「今日のシャルロッテさん、意地悪っ」と顔を背けた。
シャルロッテは両手で頬杖を付いてなまえを見つめている。

「ごめんなさいね。可愛い子には意地悪ちゃうのよ」
「もおー…」
「だって、なまえはこの虚夜宮で唯一、あたしと釣り合う美しい女の子なんだから…」
「シャルロッテさん…」

2人は頬を赤らめ、嬉しそうにはにかんで見つめ合った。辺りには芳しい薔薇の香りが立ち込めている。

なまえは、シャルロッテに唯一認められた“お友達”だった。

なまえが破面として生まれ落ちた時、何がどうなったか戦闘能力が多いに欠け、闘争心すらどこかへ消え、気弱な性格となって生まれてしまった。斬魄刀だって薄くて細くて、武器というより文具のようだった。
普通なら役立たずとして処分されるが、その抜きん出た美貌と、その弱々しい内面が男どもの心を掴んだ。処分の話はなあなあになり、なまえはとりあえず生かされたのだ。

当然、女からは疎んじられるし、男からは変に馴れ馴れしくされたり、敬遠されて孤立していた。困ったなまえはいつも人目を避けるように端っこの方にポツンと座っていた。
そこへシャルロッテが通りかかり、声を掛けたのだ。

「あら、ブサイクちゃんかと思ったら違かった。
…あたしの次に美しい顔をしているわね。お友達にしてあげても良いわよ」

そう告げられ、なまえは初めてお友達が出来た!と多いに喜び、シャルロッテと大の仲良しになったのだ。
男たちのあしらい方もシャルロッテに教わった。意地悪な女を見つけた時の逃げ方だって、シャルロッテが丁寧に優しく、時に厳しく特訓してくれたのだ。

シャルロッテは可愛い妹分のようななまえが大のお気に入り。話せばウマが合うし、反応だって素直でよろしい。嘘をつくのが下手くそで、真面目でちょっと不器用で。
もしかして、なまえは破面ではなくて、朝ドラの主人公じゃないかしら。
こんな感じに彼女の事を思っているのである。



「まあ…ほんっと文句なしの顔ね。あたしの次に。それに、ちょっと乳臭いけど」
「シャルロッテさあん!」
「うふふ。事実よ、事実」

そう微笑んだシャルロッテの唇は美しく輝いていた。それにまつ毛も長いし、お肌も綺麗。髪の毛だっていつも艶々で良い匂いがする。近くに居ると、ちょっとドキドキしちゃう。
なまえの憧れの人であり、大好きなお友達だ。

「そうだ、バラガン様がなまえに渡せって」
「わ、いつものですか」
「そ。いつものよ」

シャルロッテは笑いながら紙袋を取り出した。中にはハッピーターンだとか、きな粉棒、最中、煎餅が入っている。おじいちゃんらしいセレクトだ。
2人で笑いながらそれを食べる。

「これ、現世のおやつですよね」
「好きらしいのよ、これが」
「バラガン様も可愛いところありますよね」

2人はそれから、美容の話やら、他の破面の噂話に花を咲かせた。ザエルアポロがそろそろ即効性のある回復薬を完成させるだとか、またノイトラがテスラをボコっていたとか、グリムジョーの一味がこっそり現世にラーメンを食べに行ってるらしい、とか。

シャルロッテはこの後、任務があるのでお茶会はおしまいするわと言った。
それじゃあまた、となまえはシャルロッテの絢爛豪華なお部屋を後にした。
飾り気のない廊下に出ると、ふと夢から覚めたような、名残惜しい気分になった。

「私もシャルロッテさんみたいに、きれいで強くなりたいなあ…」

いつか私も、十刃の従属官に任命されてみたいなあ。過ぎた夢だけれど。
誰かに必要とされてみたい。
だって、生まれてこの方、誰の役にも立ってないんだもの。




なまえに任務が与えられていない訳ではなかった。
ただ、誰にでも出来る雑用というか、破面らしくない仕事の担当だった。みんなが集めたデータをまとめたり、資料を取り出したり(主にザエルアポロとウルキオラ相手の仕事である)、会議のお茶出しだとか。
たまに藍染様から届け物をお願いしても良いかなと言われて、十刃の皆さんに物を運ぶくらい。
この間はスタークさん。物を持っていくと、スタークさんは優しくありがとーと言ってくれるけれど、いつもすごくすごく距離をとってお話しするから寂しい。本人も寂しそうだ。リリネットさんも遠くにいる。
彼曰く「俺が力士なら、なまえちゃんはハムスターだからなあ…。同じ部屋にいると気付かないうちに殺しちゃいそうで怖い」と言っている。リリネットさんも「無駄な殺生は趣味じゃなぁーいっ」だそうで。
それに反論できない自分の弱さがもどかしい。

今日はグリムジョー様にお届け物をするのだ。ロクに響転も出来ないから、ゆっくりゆっくり運ぶしかない。
こんなに長い廊下を歩く破面はロクに居ない。みんな響転であっという間に向こうまで着くからだ。

遠くにやっとグリムジョーの宮が見えてきた頃、なまえは小さくため息をついた。

グリムジョー様って、威圧感が凄いから苦手だなぁとなまえは思った。
怒鳴られた事もないし、意地悪された事もないけれど。まず、見た目がちょっと怖いから警戒しちゃうし。
でも、他の十刃の人たちもスタークさんのように優しいし、彼も根っこは優しい人だと思いたい。
まあ、例外の人も居るけれど…。
なまえは、よしと気合を入れて「お届け物です」とグリムジョーの宮の入り口を叩いた。




───お届け物です。

シャウロンは二日酔いの頭を抑えながら、声の主の霊圧を探り、ハッとした。

「皆の衆、姫だ!姫が来たぞ!」

同じように二日酔いでグッタリしていたグリムジョーの従属官達は同じようにハッとして、即座に身支度を整え始めた。
この宮の主であるグリムジョーも例外ではない。すごい勢いで髪の毛をセットし直している。
シャウロンは比較的優しい声色で「少々お待ちを」と答えた。
昨日、グリムジョーが「酒盛りでもすっか」と言ったものだから多いに飲んでしまった。盛り上がり過ぎて、後半のことは覚えていない。起きたら全員とんでもない格好で床に寝そべっていた。それだけだ。
姫が来ると知っていれば、もう少し抑えていたのに───。

グリムジョーの宮で、なまえはアイドル扱いされていた。中学生の男子達が「アイツ、可愛くね?」「ヤバい、マジ可愛い」と言い合う気軽さでヒソヒソ噂されていた。気付けば本名で呼ぶのも憚られ、仲間内ではこっそりと姫と呼ばれていた。
彼女とすれ違えば「今日、俺、姫とすれ違った」と自慢したし、挨拶されれば「声まで可愛いモン、ズリィよな」とデレデレしていた。
そんな子が、お届け物ですと突然この宮にやって来たので、男どもは大騒ぎ。
しかしこの興奮を彼女に悟られてはダサい。だから出来る限り素早く、静かに髪をセットして、服をしっかり着込んで、何気ない顔をしてそれぞれの定位置についた。お部屋の消臭スプレーだって忘れないのが、出来る男の嗜みだ。
大量の酒瓶は物陰に押し込んだ。

シャウロンは紳士なので、余裕があった。
二日酔いをすっかり隠して、優しい微笑みを浮かべて扉を開いた。

「やあ、お待たせして申し訳ない。美しいお嬢さん、どうぞお入りください」

こんな感じでストレートに褒め言葉も言えた。多分、肩を抱くことも出来る。王であるグリムジョーを差し置いてそんな事はしないけれど。

「突然ですみません。藍染さまからお届け物がありまして…」
「いやはや、ご足労頂き申し訳ありません」

とはいえシャウロンだって心の内は大興奮だ。可愛らしい女の子を連れて歩けるなんて役得である。
全員が二日酔いを隠してその辺に座ってはいるが、視線だけはしっかりとなまえを捉えている。彼女はそんな捕食者の視線にも気付かずシャウロンの後ろを必死に追いかけている。
しかし、なまえは突然ハッとしたように辺りを見回し、ペコ、とお辞儀をした。

「みなさん、お疲れ様です」

礼儀正しい…。可愛い…。
全員、こうして同じことを思った。しかし馬鹿正直にそれを口にするわけもなく、「おー、おつかれ」「お前も大変だよな」「重そうだな。手伝ってやろうか?」などとスカしている。
何度も言うけれど、男どもの内心は大興奮だ。

彼女が去った後。
全員で顔を見合わせて「初めてあんな近くで見た!かわいい!」と、キャアキャア言って瞳を輝かせていた。なんだかんだ、彼らもただの男の子である。




「グリムジョー、入るぞ」
「ああ、シャウロン。入れ」

グリムジョーもシャウロンも、普段の1.5倍くらいカッコいい声を出している。
可愛い女の子の前でカッコつけるのは、もはやマナーに等しかった。
なまえは勧められるがまま、高級そうなふかふかのソファに腰掛けた。

「グリムジョー様、こちら藍染様からお届け物です」

緊張した面持ちで白い箱を差し出すなまえ。
グリムジョーはそれを受け取ると、中身をチラリと確認してすぐ閉じた。

「シャウロン、そっちの部屋にでも置いておけ」
「かしこまりました」

シャウロンは放り投げられた箱を鮮やかに受け取り、静かに部屋を出て行った。
今はグリムジョーとなまえが広い部屋でぽつんと向き合っている。
なまえはおそるおそるグリムジョーの顔色を伺った。無言で居られると、ちょっと怖いのだ。グリムジョーはなまえと目が合うと、薄く笑った。

「ご苦労だったな」
「いえ、とんでもないです」
「遠かったんじゃねえか?お前の足じゃ」
「…はい。遠かったです、とっても。グリムジョー様なら一瞬なのでしょうけれど…」

なまえは曖昧に笑った。
それを見て、グリムジョーは天を仰ぎたくなった。
照れたような笑顔も可愛いじゃねえかよ、コイツは!

王と呼ばれるグリムジョーであっても、可愛い女の子への免疫はゼロだった。気の強い女を黙らせる方法はいくらでも知っていたけれど、それ以外は全くの無知である。
なまえと何を話したら良いのか、この子と仲良くなるにはどうしたら良いのかなんて、一つも知らない。
ただ目の前の子に、それとなく話しかけて場を繋ぐくらいしか出来なかった。

「まあ…アレだ、お前がこっち来んの大変なら…」
「?はい」
「今度から俺呼べよ」
「えっ」

言った。
ついにグリムジョーはそう言った。
女の子を気遣う言葉を投げかけたのだ。
なまえは驚いて固まっている。グリムジョーは更に言葉を重ねることにした。

「別に、そういうの迷惑じゃねえし…」

グリムジョーは、もうなまえの顔をまともに見れない。今ので全力を使い果たしたのだ。
可愛い女の子と話すのって、かなり体力がいる。一言二言話すだけでも、頭の中では「可愛すぎる」「ヤりたい」「抱きたい」「嫌われたくない」「カッコつけたい」と色んな感情が渦巻いているのだ。それを抑えて、理性的に彼女とお話しするのだからドッと疲れるのだ。
グリムジョーは彼女の顔をやっと真正面から見る事が出来た。

「グリムジョー様…ありがとうございます!でも、私、平気ですので…、また来させてください」

なまえはグリムジョーの優しさに瞳をうるうるさせていた。やっぱりどんな表情でも可愛らしい子だった。
グリムジョーはボソボソと「つか、何かあれば力になってやっても…全然…」と付け加える。

「グリムジョーさま、ありがとうございます」
「大した事じゃねえから…」

グリムジョーは土産の一つも持たせてやれない事を残念に思いつつ、宮の出口まで彼女送り届けた。ついでに彼女の部屋まで送ってやろうかとも考えたけれど、2人きりで長い距離を歩くなんて、もう心臓も思考も持たなそうだと思った。
どこでプチンと理性が切れて、その場で押し倒しちまうか分かったモンじゃねえ。そんな事をして、この子に嫌われなくない。
最後に「また来いよ」とだけ言って、彼女の肩に触れた。

その瞬間、火傷しそうなくらい、グリムジョーの指先に甘い熱が集まった。





なまえは長い回廊を戻りながら、グリムジョー様、優しかったなあと思い返していた。
最後は後ろの方に従属官の皆さんも並んでいて、私なんかにも丁寧にお見送りをしてくれた。
グリムジョー様は強いから、私みたいに弱い奴なんて嫌いだとばかり思っていた。
もしかしたら、また彼にお届け物をして、もっと仲良くなったら従属官に任命されちゃったりして!
そんな都合の良い事をついつい考えてしまった。
なまえはグリムジョーの仲間たちと働く未来を勝手に描いて、ウキウキしていた。

だから、後ろから近付くあの人に気付かなかったのだ。
凶暴で、恐ろしくて、みんなも良く知るあの人である。

「よォ。随分とご機嫌だな、ペット」
「…」

なまえはピタリと足を止めて、おそるおそる振り返った。
十刃の中で1番苦手な人物、ノイトラ・ジルガである。
いつもヤらせろって言ってきたり、いきなり身体を触ってきたり、とにかく近寄りたくない人なのだ。
ノイトラは立ちすくむなまえにどんどん近寄ってゆく。

「ペット、返事の一つも出来ねえとは、躾けが足りてねえんじゃねえの?オイ」
「のい、とらさま…」

気付けばなまえの背中が壁にピタリとついた。まずい、逃げ場を失ってしまった!もし逃げたとて、捕まるのは目に見えているけれど…。
ノイトラは込み上げる笑いを堪えながら、なまえの顔を覗き込んだ。

「俺が直々に躾けてやろうか?」

なぁ、テメェもそれが良いだろ?と、ノイトラはなまえの肩に手を掛ける。
ノイトラの躾なんて、絶対セクハラに決まってる!
なまえは顔を背けて、ポツリと返事をした。

「…遠慮します」
「あ?」
「…遠慮、します!」

ノイトラ相手だもの、緊張と恐怖で声が震えてしまう。
なまえは少し期待した。このまま、つまんねえ女だなと舌打ちして、どこかに行ってくれないかな、と。
しかしそう簡単ではないのが、このノイトラ・ジルガという男だ。

「お前、なァんか勘違いしてねえか?」
「きゃっ」

ノイトラはなまえの服の胸ぐらを掴むと、そのままつま先が浮くほど持ち上げてしまった。所在なさげになまえの足がゆらゆらと揺れる。

「テメェみてえな弱カスが、十刃様に楯突ける立場だと思ってンのかよ、オイ」
「…ぅ、」
「何か言ってみろ」

答えろ、とガクガク揺さぶられる。なまえは揺れる視界の中で、必死に言葉を紡いだ。

「…わたし、だって、ノイトラ様の…従属官じゃないですもんっ!そんな、躾とか、される立場じゃ…」
「…成る程なァ」

ノイトラはピタリと手を止めて、ゆっくりとなまえを下ろした。ホッとしたのも束の間。ふと彼を見上げると、俯いて喉の奥クツクツと笑っていた。
明らかに悪いことを企んでいる──その表情の凶悪さに、背筋がゾッとしないでは居られなかった。

「…そうだな。テメェは俺の従属官じゃあなかったな。悪い事しちまったなぁ…」
「はい。私、ノイトラ様の従属官ではないので…。それでは!」
「まァ待てや」
「わっ」

逃げ出そうとしたなまえ、今度はノイトラにひょいと首根っこを掴まれてしまった。
どうしよう、従属官とか余計な事を言ってしまった気がする!
なまえは僅かながらの抵抗を見せながら、冷や汗をダラダラかいて、目をショボショボさせて、ノイトラの次の言葉を待った。
まさか。もしかして。

「今日付でテメェを俺の従属官に任命する。どうだ?嬉しかったら尻尾でも振ってみろよ」

目の前が真っ暗になる心地がした。
なまえはつい、小さく頭を横に振ってしまった。

「…そんな、」
「オイオイ、ご主人様に向かって随分と失礼じゃねえか。やっぱ躾が必要だな」
「や、大丈夫です、」
「大丈夫かどうかは俺が決める」

ノイトラはなまえが逃げられないよう、ガッチリと肩を抱いて歩みを進めてゆく。おそらく行き着く先はノイトラの宮である。
もう決定事項なのだろうか。気紛れに前言撤回してくれると嬉しいんだけれど。
なまえは逃げる機会を伺うものの、失敗した時のことを考えると恐ろしくて何も出来なかった。

「だっ、だって…」
「だってもクソもあったモンかよ。さ、躾の時間だ」
「や、やです、私…」
「あ?テメェに拒否権あると思ってんのか?」

ないです…。
小さく呟くと、ノイトラは上機嫌に笑ってなまえの胸を揉みしだいた。

「ぎゃ!」
「色気無え声出してんじゃねえよ。萎えるだろうが」
「だ、だって、なんで勝手に…」
「あ?俺が俺の従属官好きにして何が悪い」
「や、だめ、だめです…」
「…テメェに拒否権は?」
「ありますううう」
「あるワケ無えだろうがッ」

ノイトラは楽しそうに笑ってなまえを抱き上げた。なまえはもう涙目だし、口元は恐怖で歪んでいる。

「好きなだけ抵抗して良いぜ。その分キツく躾してやっからよ」
「…ぅ、」

涙を引っ込めようと、なまえは浅い呼吸を繰り返した。

躾、怖すぎる!
出来るだけ良い子で居た方が身の為なのだけれど、抵抗しなければ、それはそれで何をされるか分からない。
文字通り、なまえは手も足も出せずにノイトラの腕の中で縮こまった。

ぱち、とノイトラと視線が合う。

「なんだ、物欲しそうなツラしてんじゃねえよ」
「…してないです」
「あ?何言ってんだ?してただろうが」

眉間に最大限にシワを寄せて凄まれると、なまえはつい彼の言いなりになってしまう。

「…しました」
「だろ?望み通りにしてやっからよ」
「いや…」
「あ?」
「うれしー…」
「そうだ」

あは、あはは、と乾いた笑いが溢れてしまう。ノイトラだけが心から満足そうに笑っていた。逃げられもしない、逆らう事も出来ない。こうなれば人権は剥奪されたようなモノである。
気付けばスカートの中にノイトラの手が差し込まれている。

「ノイトラさま、それはっ…だめ、です!」
「あ?」
「セクハラ!セクハラですよこれっ」
「だったら何だ」

ノイトラは本当に面倒臭そうにため息をついた。ついに躾と脅す事もしなくなった。
手はスカートの中をまさぐり、なまえの尻を撫でている。上司として、本当に最悪である。

「訴えますから!虚夜宮の労働組合に、訴えますから!」
「やってみろコラ、ココに労働組合なんざねえんだよ!」
「うううう」
「諦めろ」


きっと、なまえが虚夜宮の労働組合の組合長に就任する日は近い。
負けるな、なまえ。抗うのだ、なまえ。
その暁には、セクハラ防止条例を制定するのだ。36協定よりも、何よりも早く制定しなければなるまい!
今日も、虚夜宮の外には、欠けた月だけがぽっかりと浮かんでいる。

(おわり)


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