「あ、杉田」

「おはようございます。手術お疲れ様です」

「杉田こそ大丈夫?昨日1日起きなかったとか聞いて心配してたんだから」

「え?」

「あれ、聞いてない?」

「はい」

「なんかね、一日中唸って悪夢でも見ているようだったって」

「へぇ…」


 悪夢、と言えば悪夢にもなるのかもしれない。あの女神とか言う奴はわたしのタイムリミットを見ながら楽しんでいるんだろう。

 サイコーの方は手術も全く問題は無く、漫画通りに進んでいる。良かった、本当に何ともなくて。本人は99%成功するものだから、とか言っているけれど、やっぱり気になってしまう。そういうところは亜豆と共感出来ると思う。


 本当は、自分のあの病室から出てしまうのはいけないことなんだけど、残された時間をあんな退屈な箱の中で過ごすのなんて絶対に嫌だ。そんな訳であの部屋からコッソリ抜け出してきたって訳。


 その後段々シュージンや亜豆、香耶ちゃんが入ってきて部屋はにぎやかになった。シュージンや香耶ちゃんは何だか距離があるように感じる。蚊帳の外の人間だからかな、そう思ってお先に失礼させてもらった。


「杉田さん!」

「…高木さん」


 名前を呼ばれれば、聞こえた通りの声の持ち主、シュージンがいた。さっき感じたこともあってかなんだか悪い予感がする。


「サイコーと亜豆が付き合ってるのわかってるよね?」

「はい、勿論」

「わかってるんならさ、もう俺達には関わらないでくれるかな」

「どうして?」

「わからないのか?俺達の夢の為なんだよ」

「わたしごときが2人の愛を裂ける筈がありません」

「杉田!」

「…はい」

「頼むから…、もう、関わらないでくれ」


 喉から音を絞り出すように言うものだから、返事をするしかなかった。嗚呼、やっぱりわたしは邪魔者でしかないのね。邪魔者にしか、なれないのね。


「…すみません」


 そう言うことしか出来なかった。悪気は、少しあったかもしれない。いや、少しどころじゃないな。でもまさか、あなたにそんなこと言われるとは思わなかった。


「あ、服部さん」

「身体の方は大丈夫かい?」

「全然大丈夫です。ご心配ありがとうございます。ところであの、前話したことの続きなんですが、お時間ありますか?」


 病室へ帰ろうとしていたところへ服部さんの姿が見えた。もう時間は少ししかないし、話すと約束してしまった以上、何も言わないで消える訳にはいかない。…例え記憶から消されてしまうとしても。


「わたし、異世界人なんです」


 そうにっこり笑えば、眉をひそめて怪訝そうな顔をした。


「何故かわかりませんが、この世界に紛れ込んでしまったみたいで。信じられないと思いますが、この世界、特に少年ジャンプのことは知っているんです、漫画で」

「ごめん。イマイチ意味がよくわからない…」

「簡単に言ってしまえばこの世界が漫画化されているんです。だから、もとの世界ではワンピースやナルトは連載されていて大人気漫画ですが、福田組の人達の作品は全くありません。それ自体がお話として、ジャンプに掲載されているんですから」


 服部さんは深く考え込んだ後、そうか、話してくれてありがとう、と複雑な顔のまま言った。わたしの情報が一切無いのはそういうことです、と言えば信じられないけど、辻褄が合うもんな、と零していた。

 笑顔を作って服部さんと別れたあと、深い溜め息をついて部屋へ帰り、出ていたことがバレていたらしく看護士さんの説教を受け流した。シュージンに言われたことを思い出しながら、酷く荒れた、でも静かな心で眠りについた。


想うこと、それ自体が罪だと告げた
第三者の理想型


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