“チーベ”。なんとなくそう名付けた。一緒に過ごしているうちに思ったのだけれど、賢いし(トイレも教えたその日のうちに覚えた)、気品のあって高貴な猫だと思った。凛と澄ました顔とか大人しい振る舞い。もしチーベが人間だったらきっと素敵な女性なんだろう。そんな猫に懐かれていることが本当に嬉しかった。

マンションの部屋に鍵を差し込みくるりとまわす。“カチャリ ガチャ”毎回なるこの音を聞きつけて、チーベは玄関でお出迎えしてくれる。
「ただいま」
声を掛けてリビングに進むと子供みたいについてきて、わたしが胡座をかくとその中にちょこんと座る。その仕草全てが愛くるしい。
こんな可愛い子がうちにいるんだから早く帰りたくて。いつもは仕事終わった後、よくマスターとお話しするんだけど、最近はすぐに帰るようにしている。それを見てマスターは「やっと陽にも彼氏が出来たか」なんて。軽く否定して受け答えたけれど、大きなお世話よ。だってわたしの想い人は絶対にわたしだけを愛してくれはしないのだから。

臨也を愛してしまったことはわたしの人生の誤りだと思う。このままだと結婚も出来ない気がする。かといって他の人を愛することも出来ないし。
因みに、わたしから臨也に近づいたわけではない。“関わるな”と言われて関わるような捻くれ者ではなかったし、昔のわたしは問題を起こしている暇など、なかったから。


*****


「はぁ、はあっ」

わたしは走っていた。膨大な量の借金を残し死んだ父、それからの疲労で過労死した母、高校生のわたし。ただでさえ生活するのも大変なのに、借金取りから逃げ惑う毎日。
もう、疲れたの。
走って走って走って、怪しそうなビルの屋上に来た。不思議なことにフェンスがない。いや、今のわたしにとっては寧ろ好都合。足場の無い場所へ向かって一歩一歩踏みしめていく。どうしてだろう、酷く心が落ち着いてる。最後の一歩、もう、サヨナラ...

「簡単に死ねると思うなよ」

ぐんと腕を引っ張られ、端から離される。嗚呼、まだ死ねないのか。生きなきゃいけないのか。

「邪魔しないでよ!」

そう叫んで振り返ると、かの有名な折原臨也がいた。





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