「例の件ですが、同盟ファミリーから許可をいただきました」

「了解!」

「別件で…」


 息を切らしながら、わたしは昴の報告に応えていた。
 叔父様の稽古が始まってからというもの、どうにか効率良く作業出来ないかということでこの形に落ち着いたのだ。稽古をしてるからと言って、ボスであるわたしの事務的な仕事が減る訳ではない。しかし出来るだけ体力作りの時間にまわしたい為、書類内容を昴に読んでもらい、内容を理解した上で判子をおしてもらうことにしている。つまりわたしは今ランニングマシーンでひたすら走っている。稽古の時間ではない。


「梨奈そろそろ稽古始めるぞ」

「はい!」


 ランニングマシーンから降り、擦れ違い様に昴に礼を入れる。息がなかなか整わないのはまだ体力が少ないから。


「読心術の続きをやろうか。今は息があがっているみたいだし集中力は必要だがな」

「はい」

「ではまず目を閉じて相手のことを考えるんだ……」


*****


「なーんかおかしくね?」

「何がです?」


 梨奈さんの消えた地下第一練習場で愁さんが言った。


「いや、わからないならいい」

「教えて下さいよ!」

「お子様にはまだはえーよ」

「酷いですね」


 愁さんは一度決めたことを滅多に曲げることはないので腑に落ちないが諦める。
 その時地響きが起こった。


「なんだ…?」


 その音はどんどん近づいてきて「「「ボス!!!」」」メイドや料理長、その他の召し使い達が部屋のドアを開けて止まった。


「何してんだお前ら」

「あれ?ボスは?」

「ボスなら今稽古中です」

「では此処で待たせていただきます。ね、みんな?」

「おう!」

「勿論です」


 訳がわからない僕と愁さんは顔を見合わせて首をかしげるばかり。とりあえず原因はボス、貴女にあるようです。


*****


「くしゅんっ」

「風邪か?」

「いいえ」

「じゃあ集中して続けろ」

「はい」


*****


「ふぁ〜」


 一応今日の稽古が終わり、もう何本目かになるスポドリを口に含む。最初に忠告を受けた通り、やはり叔父様は厳しい。でも、その分成長している…と思えば頑張ることが出来る。何よりわたしは強くなければいけないのだ。


「おーい梨奈ー」

「なに?」

「ちょっとこっち来いって」


 愁にぐんぐん引っ張られ第二練習場から広い第一練習場に連れてこられた。ランニングマシーンや色々な機器が置いてある場所だ。


「「「ボス!!!」」」

「え…?」


 そこにはこの屋敷で働くありとあらゆる人たち。凄い形相をしてるんだけど、なに…?給料に満足しないとか…?そんなのこちらとしても余裕ないから難しいよ…


「いいですかボス。まず私から。きちんと食事をお取りになって下さい」

「おにぎり、食べてるよ?」

「知っています!誰が作ってると思ってるんですか!」

「ザック…。美味しいよ?勿論」


 ザックとは料理長の名前。一応この屋敷にいる人のことは全員覚えている。お世話になっているし、わたしたちの為にいてくれるのだから覚えなくてどうするのだ。
 そして、ザックが呆れた顔をしているのは…何故?


「そういうことを言ってる訳ではないのです。いいですか、きちんとお座りになって、食べるようにして下さい。食事くらいゆっくりしなくてどうするんですか!」

「………」

「次はわたしからです。お風呂くらい大浴場でゆっくり浸かってはいかがですか。シャワールームで三分で済ませるなんて…」

「何で知ってるの!?」

「お湯を使っているのだからわかります。それに髪を乾かしているのは誰だとお思いで?年頃の女の子がそんなのではいけません」


 メイド室ってそんなのも確認出来るようになってたのか…知らなかった…。でも髪を乾かすのは専属のメイドなのに…メイド長に報告するのは当然か。


「でもわたしはもう女の子なんかじゃ───」

「「「ボス!!!」」」

「はいぃ…」


 何でわたしこんなに色々言われているの…一応一番偉い人なんだけど…。


「もっと自分を大切にして下さい」

「それにこの怪我は何ですか?怪我をしたら医務室に来なくては駄目じゃないですか。いつもご自身が言われていますよね?次こんなことがあったら大袈裟に手当てしますよ、ぐるんぐるんに」

「うぅ、はい…」

「それに綺麗だと敵のボス落とせたり便利なんじゃねえの?」

「それは…そうね」

「え、あ、本気にした?冗談…」


 なんていうか、わたしの為にこんなたくさんの人が待ってくれていたんだと思うと…。みんな、良い人達なんだから。


「だからみんな大好きよ」

「へ?」

「ザック、レイチェル、ペルシャ、マーサ、テル、トーマス、ロゼット、マリー。ありがとう」


 そう言ってみんなまとめてぎゅうっと抱き締める。みんなの優しさが染みて、少し涙が出そうになる目頭をこらえた。


「じゃあご飯の用意お願いね、ザック」

「はい!」

「その後は久しぶりに大浴場にでも行こうかな。ねえレイチェル?」

「かしこまりました」

「ロゼットには傷の手当て、お願いしようかな」

「では参りましょうか」

「俺も行く」

「来なくていいよ、昴と席についといて」


 そう言うと少しむすっとした様子で部屋を出て行った。どうした?あいつ。





110824



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