「こんにちは、沢田綱吉です。中学の時に並中にいたから知ってる人もいると思うけどよろしく」


 そう皆の前で言った彼は綺麗に微笑んだ。その笑顔でクラス殆どの女子が頬を赤く染めただろう。イタリアで一体何人の女を落としてきたのかを考えさせられる。中学時代はダメツナと呼ばれていたらしいけれど、イタリアで二年半もいた所為かそんな面影は跡形も無い。寧ろ彼の漂わせる空気は周りの男子のそれとは比べものにならない程大人びている。……なんて、こんな風に分析してしまう自分を自覚する度に、なんて冷めた人間なんだと思う。まぁマフィア向きであるかもしれないけど。
 でも、どうしてよりによって同じクラスなんだろう?あ、京子がいるからか。


「じゃあ、席はそこな。」


 そう言って担任が指し示したのはわたしの前の席。其処は欠席がちな鈴木君の席の筈だ。単位が足りず中退したって噂があったけれど本当だったとは…。でも別に仲が良かった訳でもないからどうでも良いのだけれど。
 でも、机さえ持っていけば座れるのに京子の隣。ボンゴレならそれ位容易いことだろうに。寄りによってわたしの近くとは…京子に何か言われそうだなあ。でもわたしとしてはマフィアの権力で学校脅したりだとかそんなことはしたくない。せめて学校に居る間だけは普通の女の子でいたいから。とかそんなこと言ったってもう遅いんだけど、ね。

 わたしの席の列は窓側の端っこ。だから必然的に沢田もそうなる訳で。近くにいるクラスメートに挨拶をしている。


「こんにちは神崎さん。カレゾフの皆さんは元気?」

「御陰様で。最近は平穏過ぎる程ですよ、ボンゴレデーチモ」

「そんなに殺気づかないでよ、仲良くしたいだけなんだからさ」

「……」


 確かに、ボンゴレ]世は優しい人だと皆口々に言う。だけれど、こんなフェロモンむんむんな人が安全かどうかだなんてそんなのわからないじゃないか!と言ったらきっと愁は笑うだろうな。


「ねぇ神崎さん、話があるんだけど」

「え?」

「そこ!さっきから煩いぞ、何話してる!」

「先生、神崎さん具合が悪そうなので保健室連れてきます」

「そんなこ、っぐ!」

「お、おう。大丈夫か?神崎」

「大丈夫じゃないです…」


 そんなこと無い!と言おうとしたら皆の死角から腹を殴られた。流石と言うべきかなんというか…。でも、腹が痛いのは事実です。

 わたしを労る様に教室を出ると面倒臭くなったのか担がれてしまった。骨ばった肩がお腹に当たるから痛い。そして連れてこられたのは屋上。転校初日なのにスムーズに此処まで来るのって凄い…と言いたい所だけれど、きっと建物の構造がかかれているのを入手したとかそんなんだろう。なんかもう、ボンゴレって何でも有りだな。


「単刀直入に言う」

「どうぞ」

「ボンゴレに入る気、無い?」

「は?」


 しまった、と思った時にはもう遅く、ボンゴレからは冷ややかな笑顔が注がれていた。学校でこういう事を話すのは調子が狂うなぁ。ボンゴレに入るってことはつまり、吸収されろってことかしら?


「失礼。しかし、何故その様なことを仰るのですか」

「特に大きな意味は無いけど」

「でしたら、わたくし共のような弱小ファミリーがボンゴレなどに入っても、あまり需要はないと思われますが」

「それも考えたんだけどね、」


 ボンゴレの意図がわからない。どうしてこんなことを言うのか、わたし達なんかに構うのか。全く持ってわからない。


「申し訳無いですが、その回答はまた後日ということで待って戴けないでしょうか?」

「わかった。じゃあ返事待ってるよ」

「それともう一つ、こちらからもお願いがあります」

「なに?」

「此処での喋り方は他の者と同様にさせて頂きたいのです」

「いいよ全然。俺も堅苦しいなあって思ってたし」

「では沢田とお呼びしても?」

「どうぞ。敬語もとって構わないから」

「ありがとう」

「その代わり俺は梨奈って呼んでも良い?」

「別に、良いけど…」

「良かった」


 まただ。綺麗な笑顔だと本当に思う。けれどさっきよりも自然な感じがする。やっぱり目の前にいるこの人は、優しい人なのかもしれない。


「それと、さっきはごめんね」

「何が?」

「お腹だよ、殴っちゃって」

「いや、別に。もう痛くないし大丈夫」


 わたしを黙らせる為にやったことはわかっているし。こんな風に心配してくれるなんてやっぱり優しい人。マフィアのボスじゃないみたいに、腰が低いような気がする。


「十代目ー!」

「、隼人」


 同じくして本日転校したてのデーチモの右腕、獄寺が来た。


「探しましたよ十代目!保健室に行くと言っていたのにいらっしゃらないんですから」

「悪いな、隼人」

「じゃあわたしは帰る」

「もう?もっと話したかったのに」

「帰って話し合わなきゃ」


 ポケットから携帯を取り出し、電話をかける。帰るよ、と一言告げた後すぐさま電源ボタンを押し通話を終了させる。


「飯野昴くんか」

「流石ボンゴレ、としか言いようが無いなあ。当たり」


 昴も、学年は違えどわたしの警護として此処にいる。


「じゃあ転校1日目、楽しんで」

「梨奈も今日のこと、よろしくね」


 沢田の言葉を耳から流し、わたしは階段を駆け下りた。昴はもう下で待ってるだろうか。

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