「うん、似合う。はいじゃあこれ次」

「あの!綱吉様、」

「口答えは無用でしょ?」

「…はい」


 シャッとカーテンを閉めた。一体、わたしは何着の服に袖を通したのだろう。何故イタリアに来てまで服を着なければいけないのか。どの質問も尋ねることはできない。


「着替え終わりました」

「うん、よし。いいかな。じゃあその服脱いで」

「はい」


 一通り終わったらしき綱吉様の言葉にどうも納得できない。わたしが納得しようがしまいが綱吉様には関係ないのだろうが。


「な、何してらっしゃるんですか!」

「服を買ってるんだけど」

「どうして」

「たまには女性らしい格好した方がいいよ、梨奈」


 それ以上聞くことは許されなかった。買っている服もさっき綱吉様が高評価していた物で、否応なしに全てわたしがもらうことになりそうだ。綱吉様からもらうなんて、着ない訳にはいかないし。
 いつもご贔屓にありがとうございますと言う店員からすると、どうも常連のようだ。それとも此処の付近はボンゴレの「縄張り」なのだろうか。


「まだ回るんですか?」

「此処で最後の店だ」

「お待ちしておりました」


 リムジンから降りると深く頭を下げた店員が出迎えた。どうやら予約してあったらしい。何の説明もないまま女性店員に取り囲まれ店のとある部屋へ入れられてしまった。ついてこない様子からすると、ここからは綱吉様とは別行動らしい。


「では測らせていただきます」

「えっ?」


 メジャーを手に仕事し始めた彼女等に問いかける。その間にもわたしのスリーサイズやら身長やらが測られていく。


「ねえ、これから何するんですか?」

「あら、ご存知ないの?」

「ドレスを新調しろとお申し付けられておりますけど」

「ドレス!?」

「はい」

「それが何か?」

「いや…」


 サイズを測り終えたようなので近くにあった椅子にどっぷりと腰掛ける。此処へ連れられた以上、わたしに拒否権はない、そうだろう。溜め息をつくしかない。


「さて、何色がいいかしらね」

「貴方、ボスなんですって?」

「まあ」

「じゃあ強い色のがいいわね」

「やっぱり赤かしら?」

「青も似合うと思うわ」


 なんでドレスなんか。わたしはスーツさえあれば十分なのに。ましてや昼に女の子らしい服を沢山買っているというのに。なんで、ドレスなんか。


「終わった?」

「まあ、ボス」

「もしまだだったらどうするつもりでしたの」

「それはそれだろ」


 ノックもせずに入ってきた綱吉様。もし、終わってなくてわたしが、下着姿とか、だったら、綱吉様はどうでもよくても、わたしにとってはどうでもよくないんだから!と思いつつ言葉にはできないので、綱吉様をちら見する。


「行くぞ」

「え、もう?」

「当たり前だろ。ドレスは数時間じゃ作れないんだから」


 腕を引かれて店員の笑顔を見、さっきのリムジンに乗せられた。綱吉様は赤ワインを開け始め、グラスに注いでいる。と、それを渡してきた。


「いや、わたしは……まだ学生ですし」

「学校辞めたんじゃなかったっけ」

「あ、いや、でも……」

「ほんと、変なとこ頑固だよね、梨奈は。まあいいや」


 渡す筈だったグラスを自分で仰ぎ、喉を鳴らす様子は何とも言えず綺麗で。なるほど、彼の色気はイタリアでこのようにして培われたのだな、と思う。
 綱吉様は夜がとてもお似合いになる。




130512

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