“コンコン”
窓をノックする音がして、振り返るとそこには例の人がいた。一応言っておくが、此処、私の部屋は二階にある。素人じゃ到底上ってこれない仕組みにもなっている。綱吉様は、以前もこうして炎を噴出させて飛んで来たのか。二回目ともなると慣れてしまうものだな、一回目に感じた衝撃や恐怖は随分と薄れている。
「普通に門からお願いしたいのですが」
「だからさ、俺みんなに内緒で来てるんだよね。門からなんて行ったらすぐにみんなに伝わっちゃうだろ?」
窓を開けるなりすぐに部屋へ滑り込んできた彼。敵対心を持っている訳でもなさそうだし、答えの催促をしにきた訳でもないようだ。トゲトゲとした雰囲気はない。
「花束、届いた?」
「ええ。昨日届きました。ありがとうございます」
「あ、本当だ、飾ってくれてる!良かった。捨てられるかもって思ってたんだよね」
「まさか」
そんなことをしたら後が怖いなどとは口が裂けても言えないが。
「で、今日来たのはー」
「前回と同様、暇つぶし、ですか?」
「いや、違う。ちょっとした旅行に付き合ってもらおうと思ってね」
「…はい?」
「何度も言わせる気?因みに、拒否権なんてないからね」
呆気にとられていると、また庭へ下りていた。姫抱きで、下へ飛び降りるのはもう定石らしい。女扱いされるのに慣れていないから本当はやめていただきたい。
「っえ!?」
「さっさと乗って」
そこにあったのは小型のヘリコプター。旅行と言うくらいだからかなり遠くへ行くのだろうか。こんなの連れて来ちゃうなんて、ボンゴレに知らせず来たっていうのはもしかして都合の良い嘘なんじゃないか…。
やはり、今日の雰囲気をもってしても相手はボンゴレトップだ。逆らってみんなに被害が及んでも困る。わたしは決心してそのヘリに乗り込んだ。
「つかぬことをお聞きしますが何処へ行くのですか?」
「……」
急に黙り込む綱吉様。離陸し始めたヘリの中、隣で窓の外を見ている。腕を頭の後ろで組む様子はなんとも偉そうである。(実際偉いのだが)
「当機はイタリアへ参ります」
「イタリア!?」
「はい」
「どうして…?」
「ボスきっての希望でございます」
綱吉様の沈黙に耐えかねた操縦士が教えてくれた。でもどうして急にイタリアなんか…どう考えても1日じゃ帰って来れないし。
「心配するといけないので電話入れてもいいですか」
「梨奈の携帯の電源なら既に切ってあるし、離陸中は危ないから電話なんてしないでね。心配なら無用だよ、俺が置き手紙しておいたから」
「なんて!?」
「さあ」
ろくなこと書いてない気がする…。数日間席を空けるわたしを許しておくれ。きっと無事に帰ってこれる筈だから…!帰ったら愁に怒られそうだな…。
130113